130年も続くパン屋があるとな?ん?店名は「松石」なのに、社長は白石?その謎を調べて参れ!

ライター・今村

パン屋さん取材! 待っていました! あっ、こんにちは、ライターの今村ゆきこです。からし蓮根も好きだけど、パンも大好き! 好きすぎて、タウン誌時代には、パン特集やパンフェスを担当するほどです。いってきま〜す♪

熊本にパン食文化を広げた
立役者といえばコチラ。
そのはじまりは、日露戦争だった!

創業者の名前がついた「鶴次郎あんぱん」
ライター・今村

今では当たり前に食卓に並ぶ「パン」ですが、この当たり前が当たり前じゃなかった時代。 つまり、熊本のパン食文化のはじまりを語る上で欠かせないのが、明治21年創業の「松石パン」です。 駄菓子屋として創業し、時代の流れと共にパン屋になっていくって、「なんで?」って思いますよね。

清正さん

思うぞ!

ライター・今村

いいですね~、合いの手、ありがとうございます。気になっているみなさんのために、徹底的に調べてきます! ということで、社長! お願いします!

白石さん

あ、はい。こんにちは。社長の白石茂です。

ライター・今村

(老舗店のイメージとちょっとギャップがある。とっても控えめな方ですね~)
こんにちは、白石社長!

新町電停そばの「松石パン 本店」。右の方が、「こういうの、まだ慣れていなくて…」と、
なかなか笑ってくれない白石社長
白石さん

はい…。歴史ですね。私が入社する以前の話なので、実際は見ていなくて…。すみません…。

ライター・今村

そ、そうですよね。大丈夫ですよ(明治創業だから、見ていたら怖い…)

白石さん

駄菓子屋として明治21年に創業し、店内に掲げている看板にもある通り、朝鮮飴などを扱っていました。パンを作り始めたのは明治25年。熊本師団御用のパン屋になり、当時の得意先はこの熊本師団(熊本鎮台・熊本陸軍の部隊のこと)と第五高等学校(現在の熊本大学)と言われています。

明治37年(1904年)頃の松石本店
ライター・今村

あ! 「松石の高級パン」って書かれていますね!

白石さん

明治37年ごろの写真です。この右上の看板は、レジの後ろにあるコレです。

ライター・今村

同じだ! 感動しますね!

白石さん

同じ頃に、熊本県から「ロシア人捕虜の給食パンを作るように」と依頼が入ったんです。このことを裏付ける文献も残っています。

パンの歴史を紐解く際に欠かせない「パンの明治百年史」。847ページには、「明治25年には松石本店がパンの製造をはじめ、28年には福栄堂がパンの製造をはじめた。~中略~明治37~8年の日露戦役の際は、熊本の練兵場に6,000名の捕虜が収容されたが、その捕虜の給食パンを焼いたのは前述の両社であった」と記されています。

白石さん

この頃は、まだ小麦粉は貴重なものだったので、「高級パン」の扱いだったんです。

ライター・今村

今、流行っている高級食パンの元祖?

清正さん

ちょっと違うと思うぞ…。

白石さん

ははは…。

ライター・今村

じょ、冗談ですよ~。(気を取り直して)パンを作る技術は、どうやって学んだんですか?

白石さん

当時は、パンは未知の食べ物。初代・松石鶴次郎は、海外との貿易 が盛んだった長崎・出島のパン工場へ従業員を派遣し技術を学ば せ、さらに10人のパン職人を連れて帰ったと言われています。

ライター・今村

6,000人分のパンを2軒で担当するのは、そのくらいの人手が必要だったということですね。

白石さん

あくまで本業は駄菓子屋だったのですが、太平洋戦争後、学校給食にパンが採用されると、一気にパン食文化が広がり、パンの小売りを強化していきました。

ライター・今村

それからパン屋さんがどんどん増えていって、私たちの生活に溶け込んでいったんですね!

学校給食として採用されていたコッペパンは、現在「ポテトサラダパン」として店頭に並んでいます
(夏場の販売はお休み)

老舗店を支えるのは
とってもシャイな社長の静かに燃える想い

ライター・今村

130年以上の歴史を持つ老舗店の社長さんという事で、プレッシャーも大きいと思いますがいかがでしょう?

白石さん

8月に社長に就任したばかりで、まだ勉強中です。

ライター・今村

(取材日が9月なので…)社長さんに成り立てほやほやなんですね!

白石さん

はい、正直、名刺を出すのが怖いです…。

ライター・今村

不安もある反面、わくわくもされているでしょう!

白石さん

不安ばっかりです…。

清正さん

倒れるんじゃないか⁉

入社して15年目。「ケーキ作り」に興味を持ち、高校卒業後に入社した白石さん。キャリア50年以上のベテラン社員に囲まれ経験を積んでいくうちに、ケーキだけでなく、パンの技術も学び、イベントの企画、地域活動も担当するようになり、「マルチプレーヤー」として会社に欠かせない一人になります。「控えめな性格だけど、しっかりと学び成長する姿勢に期待して」。「肩書が人を育てるから」と、先代の社長・松石正巳さんの引退を機に、白石さんが社長になったということです。

ライター・今村

歴代、松石一族で受け継いでいったのに、白石さんが社長になるのはすごいことでは?

白石さん

あまりそこにこだわりはないようです。一族とか関係なく、松石の味を守り続けています。もちろん、先代の息子さんも現場にいて、支えていただいています。

ライター・今村

絆を感じますね。どんな「社長」になっていきたいですか?

白石さん

気遣いが細かく、柔らかい人柄だった先代は、地域のおばあちゃんのような存在でした。人柄が商品に出ると思っているので、その立ち振る舞いを見習いたいです。

ライター・今村

社長というと、どんなお仕事をされるんですか?

白石さん

まだまだ経営は勉強中。技術も学び足りないので、パンの学校に通っています。

ライター・今村

お忙しい日々を送っているんですね。

白石さん

それに、こういった取材も、まだ慣れていなくて、とても緊張しています。

ライター・今村

…なんだろう。近所の子が成長していくのを見守りたくなる感じです。

清正さん

常連さんもそう思っているじゃろうな。

「白石さん、笑顔! 笑顔!」

そんな…(と、少しずつ笑顔が出てきた白石さん)

ライター・今村

(可愛い…)あ! 社長さんとして、大事にしていることは何ですか?

白石さん

うちは、昔ながらの下町にあるパン屋さんです。ボリュームがあり食べやすく、満足感のある商品を提供してきました。子どもの頃から通っていて、今ではお孫さんを連れてきてくれる人もいて、ありがたいことです。

ライター・今村

3世代で通うパン屋さんって素晴らしいですね!

白石さん

はい。だからこそ、パンやケーキを通して、家庭まで温かくなるといいなって思っています。そのために、職人さんたちの技術と新しいアイデアを融合して、さまざまな提案をしていきたいです。

週に一度行われるミーティングでは、新作の試食会も行われます。しっかりと味わう白石さん

「お味は?」
と尋ねると……

「GOOD!」が出ました!

ライター・今村

これだけ長い歴史を持つ中で、やっぱり熊本地震は大きかったですか?

白石さん

荷物は散乱し壁などもヒビが入ったりしましたが、幸い機械などの被害は少なく、どうにかパンを作ることができる状態だったので、2日間だけ休んで、すぐにお店を開けました。

ライター・今村

手取本町にある「アンゼェラス」も姉妹店ですよね? そちらも大丈夫だったんですか?

白石さん

はい、大丈夫でした。開店と同時に行列ができて…。みなさん、待っていてくださったようで。

ライター・今村

発災から数日で、出来立てのパンが食べられるなんて。地域の人たちは、本当にありがたかったでしょうね。

白石さん

「パンを売ってもらって助かった」という声をいただきました。町のパン屋として、商品を提供することが使命なので、チーム力で乗り越えた感じです。

ライター・今村

コロナウイルスもチーム力で?

白石さん

そうですね。一つひとつ袋に入れて提供するなど、安心して購入していただけるように対策をしながら営業を続けています。手取本町の客足は減りましたが、本店はあまり変化はありません。どうやら地域のお客様がメインなので、それが安心感に繋がるようです。

ライター・今村

地域に根付いたパン屋さんは、そんな強みもあるんですね!

一つひとつ袋詰めされたパン

「素朴だけど味がある」
白石さんのように、ほっと和める商品たち

130年続く老舗パン屋の店頭には、食パンや菓子パン、サンドイッチなどが並んでいます。そのどれも懐かしい、昔ながらのパン。ショーケースの中も、ショートケーキやマドレーヌ、レモンケーキなど、「派手なのがないんです」と白石さんが話す通り、至ってシンプルです。

子どものおこづかいで買えるような比較的リーズナブルなケーキが並んでいます。
ライター・今村

何か斬新な商品を出したりはされないんですか?

白石さん

そういうのが苦手で…。以前、「あったらいいな」と思って、パウンドケーキにモンブランのクリームをトッピングした商品を作ったんですが、原価を無視して作っちゃっていて。人気はあったんですが、消えてしまいました。

ライター・今村

えっ!

白石さん

今、人気が高いのは甘みのある食パン系です。メープルラウンド食パンやあん食パン。通常の食パンもほんのり甘みを加えて仕上げています。

ライター・今村

ふわふわで甘みのあるパンって、聞いただけでも幸せになれますね。

ふわっふわな食パン
鶴次郎あんぱんと同じあんを使用した食パン。控えめな甘みがクセに
ライター・今村

うん、確かにシンプル。

白石さん

昔から保存料を使わず、安心安全な商品を作り続けています。このサンドイッチ は、50年続いている人気商品で、毎日手作りするマヨネーズが美味しいですよ。

自家製マヨネーズがたっぷり入ったサンドイッチ 。「カロリーは高めですが(笑)」と白石さん
企業理念でもある安心安全な商品づくりへの想いを込めた「BREAD CAKE NATURAL」のコピー
ライター・今村

見た目は控えめだけど、どの商品にも優しさを感じますね。では、私も試食させていただきます!

あれもこれもと欲張りたくなります!
あんぱんの次に誕生したのはクリームパン。メロンパンは1960年代に仲間入り!
レモンケーキも長年愛される人気商品。裏までしっかりコーティングされているのが嬉しい!

あんこが出てきた~!

いっただきま~す!!!

あんぱんもクリームパンも
甘さが控えめなのがいいな~。

次は、食パンも食べたいな~(もぐもぐもぐ)

白石さんの説明も聞かず、食べまくる今村

ちょっと待って!

さすがに止められました…(苦笑)
清正さん

パンとは、それほど魅力的なのか。ぐぅ~(お腹の音)

ライター・今村

そうなんです! それに、重ねられた歴史の中で、白石さんのように、社員一人ひとりが同じ想いを持てることもスゴイこと。そんな人たちが、「食べるお客さんの笑顔のために」って同じ目標を持って作っているパンなんですよ! 美味しいに決まってるじゃないですか。

マスクの下には、こんなに素敵な笑顔が
清正さん

学問に精を入れよ。兵法の書物を読み、忠孝の心がけを持つことが肝要だ

白石さんは、さらに学びを深め、これから「社長」として老舗店を担うための人間力を養おうとしています。「ケーキ作りが好き」から始まり、育んできた純粋な想い。この老舗店が地域にどれほど愛されているかを知っているからこそ、控えめな青年は、大きな課題にも取り組むのです。そして、それを温かく見守りながら人を育てる「松石パン」、そこで働くスタッフのみなさんは、こうして若手が成長していくために大事な存在なのです。

(取材・文・撮影/今村ゆきこ)

白石さんがオススメする、
近所のラストサムライ

縁日玩具 むろや

地域のリーダー的存在の荒井正俊さんがセレクトする駄菓子や玩具に、思わず「懐かしい!」と声を上げてしまうお店です。江戸時代から続く老舗店ながら型にはまらず、「おうちで縁日」や「脳活玩具(脳が活性化するために選んだおもちゃ)」など、新たな提案も行います。

TEL:096-354-6083
住所:熊本市中央区新町4-2-40
営業時間:9:00~17:00
休み:不定
駐車場:8 台

松石パン 本店

松石パン 本店
お問合せ/096-354-1255
営業時間/7:00~20:00
定休日/なし
住所/熊本市中央区新町4-2-13
アクセス/熊本市電B系統
新町電停より徒歩1分