若者が集う洒落たカフェがあるそうじゃな。
                    しかも、その主人が、ワシに憧れとるとか!どんな男か、見てまいれ!

ライター・平野

はい、喜んで!!コーヒー大好き、ライターの平野淑湖です。カフェで好みのコーヒーに出合えるのはもちろんですが、スタッフさんや常連さんとお話しするのも好きなんですよね〜。コーヒーの香りを楽しみがら、しっかり調査してきます!

店を出すなら城下町!
町屋を求めた若者が生み出した
ドラマティックなカフェ空間。

町屋の風情感じる佇まい。カッコイイ〜!
ライター・平野

清正さん、今日は本当にありがとうございます!

清正さん

いきなりどうしたんじゃ!?

ライター・平野

私、珈琲回廊さんにずっと来たかったんです!
もう私、このまま帰ってもいいくらいです!

清正さん

おいおい! わしがお願いした調査をやらんか!!

村井さん

あ、こんにちは!

ライター・平野

(村井さんお若い!そして爽やか…!)こんにちは!今日はお世話になります。

村井さん

どうぞ中へ。コーヒーお持ちしますね。

コーヒーを入れる姿は、真剣そのもの!
ライター・平野

わー! 早速コーヒーいただけるなんて! ありがとうございます!!

おいしいコーヒーを飲みながらの取材、ぜいたくな気分です
ライター・平野

以前、移転前の新町にあった「COFFEE GALLERY」さんへ行ったことがありました。こちらでは、「珈琲回廊」と書いて、「コーヒーギャラリー」と読むんですね。

村井さん

はい。“コーヒー豆のギャラリー”という意味合いで。たくさんの種類の生豆を並べているところはそうないと思います。うちでは常時25種類ほどの豆を置いていて、焙煎も店内で行っているんです。

ライター・平野

焙煎まで! あ、あそこでモクモクと煙が上がっているのは焙煎をしているからなんですね。

店頭で選んだ生豆を、その場で焙煎して持ち帰ることができます
清正さん

ほほう。コーヒーとは、まず豆を煎ることから始めるのだな。

ライター・平野

一般的なカフェでは、焙煎機があっても店のオープン時間の前後で焙煎しているところが多いですよね。カウンターで焙煎の様子を見ながらコーヒーを飲めるというのは、とても面白いです。

村井さん

ドラマティックなお店にしたかったんです。新町の時からですが、豆を買ってもらってコーヒーをサービスしたり、好みに合わせて豆を焙煎したりと、体験型を大事にしていて。

窓越しに見た、店内の様子。生豆が並ぶスタイルです
ライター・平野

以前は新町、今は西唐人町。お店を出す際に、このエリアにこだわっていたんですか?

村井さん

僕は西区の出身で、祖母がこのあたりに住んでいたこともあり、小さい頃、この辺りは遊び場でした。でも当時は古い建物って怖いイメージがあったんです。

ライター・平野

お化けとか出てきそうですもんね。(チラッと清正さんを見る…)

清正さん

なに! わしがお化けとでも言うのか!?

村井さん

大学で東京へ進学したんですが、元々、いつかカフェをつくりたいと思っていました。熊本でカフェをやるなら城下町で、情緒ある雰囲気を残しながら和のブランディングをしていこうと。

清正さん

城下町に目をつけるとは、さすが分かっておるな!

村井さん

23歳の時に東京からUターンして、すぐにいろいろな町屋をあたったんです。今思うと、大学卒業したばかりの若造が「貸してください」と言って、貸してくれるわけないですよね(苦笑)。たまたま、一つだけ貸してもらえた物件が新町のビルの1階で、そこに「COFFEE GALLERY」をオープンしました。2015年の12月でしたね。

ライター・平野

熊本地震の4カ月前ですね。

村井さん

そうなんです。オープンして間もなくで地震が来ちゃって…。その時に同級生たちと一緒に炊き出しをやったんですよね。そしたら町の人たちが「あの時はありがとうね」と、店に来てくれるようになって、コミュニティーの中に入れていただき、かわいがってもらうようになりました。

ライター・平野

若い方々が地域住民のために炊き出ししてくださったのは、とても心強かったでしょうね。震災の影響で多くの町屋が甚大な被害を受けたと聞いています。

村井さん

地震で元々あった町屋の半数以上が無くなりました。僕はこの城下町でお店をやりたかったので、この町屋はレストランにして、ここはパン屋にして…と、いくつかマークしていたんですけど、狙っていた町屋もなくなってしまって。
この場所も、ずっといいな〜と思っていたんですが、壊されるという噂を聞いて、家主さんへ直談判にいきました。

清正さん

うむ、当事者に直接話を聞くことは大事なことじゃな。

村井さん

行ってみると、家主さん自身も取り壊すかどうか悩んでいる、と。そこで僕は、川越や京都、倉敷など、町屋を活かしたまちづくりをしている場所へ出向き、その成功例を元に家主さんへプレゼンをしたんです。当時26・27歳くらいのただの若造でしたが、自信だけはあったので、「こういうまちをつくれるのは僕です!」と。

清正さん

わしが肥後に入り、領主になったのも27歳の頃。城下町はもちろん、肥後国をよくするんだという自信に満ちあふれておったぞ。

ライター・平野

前からその家主さんとは面識はあったんですか?

村井さん

まったくありませんでした。それこそ、震災後の炊き出しで築くことができたコミュニティーのつながりで紹介していただいたんです。
何度も足を運び、想いを伝え続けて、将来性を感じてもらえたんだと思います。

数々の難題に直面するも、
確固とした信念で作り上げた
城下町の新たなランドマーク。

ライター・平野

まずは、町屋の改修工事からスタートですよね。

村井さん

地震の影響や町屋という特性上、工事に2年かかりました。オープンしたのは2019年の10月です。そして、数カ月後には、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行しちゃいました…。

ライター・平野

熊本地震に引き続き、予想もできない事態が起きたんですね。影響はありましたか。

村井さん

いえ、実はそうでもないんです。
すぐ近くに坪井川にかかる明八橋があるんですが、そこに大きな桜の木があって。ここで店をすると狙っていた時から、桜のシーズンに通りに足を出すように座ってコーヒーが飲めるように、壁を全面開放できるようにしたいなと考えていて。そうしたら、ワンちゃん連れの方もコーヒーが飲めますからね。
そして、その様子を、新町電停から降りてきた人たちが見ているのって、すごくいい情景だなと思いながら店づくりをしていたんです。

ライター・平野

風にあたりながら、気持ちいいでしょうね〜。

村井さん

そうなんです。店のつくりが風通しよく、密にならないので、お客さんには安心して利用してもらっています。結果的に年間で6万人くらいの方に足を運んでいただいていますね。

幅広い年齢層のお客さんで賑わう店内
ライター・平野

わ〜! そんなにたくさん! 店内はどこに座っていてもゆとりを感じられますし、坪庭を眺められる席なんて、ここが熊本だということを忘れてしまいそうです。

村井さん

入口を大きくして、外にのれんをかけているのも、熊本にはない雰囲気だと思います。そういった視点も店づくりに生かしていますね。

清正さん

洗練された町屋じゃのう!

ライター・平野

ほんと、これまでに体感したことのない空間でコーヒーを楽しめています!
店づくりのきっかけや原体験ってありますか?

村井さん

大学生の時にニューヨークへ留学したんですが、ブルックリンに小さなコーヒーショップがあって。そこには、黒人のおばあちゃんから白人の学生までたくさんの人が集まっていて、みんな幸せそうにコーヒーを飲んでいたんです。僕はコーヒーが好きというわけではなく、ただ単にコーヒーがある空間が好きなんだなと感じました。そこで、いずれカフェみたいなのをやりたいなと思ったんです。
ニューヨークでは、プロダクトデザインや街のディレクションなど、いろいろなことを体感できてとても影響を受けました。

ライター・平野

すごい原体験ですね!

村井さん

あと、早いうちに社長になりたかったんです。ずっと商売をしたくて。大学1年生の時には、アメリカから商品を仕入れて販売してみたりと、地道に実践を重ねていましたね。なんでも直感型で動くタイプで(笑)。

清正さん

わしの家臣に欲しい!
そういえば、そろそろわしがお願いした調査をせんか!

ライター・平野

そうでした! ついつい私の聞きたいことばかり聞いてしまって…。
村井さん、そのー…、加藤清正さんに憧れている、という噂を聞いたのですが、本当ですか?

清正さん

本当ですか、とは何事じゃ!

村井さん

はい! 清正さんには憧れがあって、「加藤清正の生まれ変わり」みたいな感じになりたいなと思っています。かっこよくないですか!?

清正さん

あっぱれじゃ!!!

ライター・平野

清正さん、よかったですね!! なんだか私も感動して目頭が熱くなりました!

村井さん

2021年8月に、すぐ近くに和菓子のお店をオープンしたんです。そこは「虎之助 TORANOSUKE」という名前なんですが、清正さんの幼少時代の名前からとったんです。

清正さん

わしも涙が出るようじゃ…!

こちらが、珈琲回廊から100メートルほどの距離にある「虎之助」。
一見すると、お店なのかどうかも分からない外観…
扉を開けると…な、なんと!!!! 漆黒の空間に浮かび上がる美しい和菓子!
村井さんが「和菓子の美術館」と話されていた通り、
錫の台に展示された和菓子一つひとつが、芸術作品のようです
旬の県産フルーツを、竹炭が入った黒い求肥で包んであります。
黒をベースにした店内や黒い求肥は、熊本城をイメージしたものだそう

やりたいなと思ったことは
必ずやってみる!
新しい文化・モノを熊本へ

ライター・平野

ところで、入り口のところに階段がありましたが、2階には何があるんですか?

村井さん

2階はギャラリーです。ちょうど今、福岡の人気セレクトショップのポップアップストアを開催しています。普段熊本では見たり手に取ったりする機会が少ない、話題性や人気のある作家の作品やショップのポップアップを定期的に開催しています。

階段の先にはギャラリーが
2階も窓が大きくとられていて、外の景色がよく見えます。
展示がない時には、2階でも自由にコーヒーを飲むことができるそう
階段を囲むようにぐるりと回遊できるようなつくり。すべてが“映える”ポイントばかり
村井さん

春には、桜を同じ目線で眺めることができます。みなさん、思い思いの場所で過ごされていますよ。

ライター・平野

すてきですね〜。私もまたゆっくりお邪魔します!

清正さん

わしもゆっくりコーヒーとやらを飲んでみたいのぉ〜

ライター・平野

もちろん、清正さんにコーヒーのお土産を持っていきますよ!
村井さん、よかったらおすすめのコーヒーを見繕ってもらえますか?

村井さん

それならうちの、PRチームのスタッフが詳しいですので、呼んできますね!

PR担当の高岡可奈子さん。お客さんの好みを聞き、その場で生豆を焙煎してくれます。
「珈琲回廊」では、常時25種類ほどのコーヒー豆を、生豆の状態でディスプレイ。
ここで好みの豆を買い求め、そのまま持ち帰っても、焙煎して持ち帰ってもOK
豆によって香りはもちろん、味わいや後味も異なる。
高岡さんはそれぞれの風味についても教えてくれます
店頭で焙煎した後は、クラフト紙の袋に密閉して手渡し。袋を通して豆の温かみが伝わります!

「豆によって違いはありますが、焙煎後2・3日経ったくらいで飲むのがおいしいんです」と教えてくれた高岡さん。ちゃっかり「虎之助」で購入した和菓子とともに、清正さんとゆっくりお茶タイムを楽しみま〜す!

ライター・平野

おかげさまでおいしいコーヒーをゲットできました!
それにしても、スタッフのみなさんはとても話しやすくて親しみやすい印象を受けました。スタッフの人材育成はどのようにされていますか?

村井さん

元々お店を作る時に、よりハイソで、よりクオリティをあげた空間やサービスの提供をやりたかったんです。1杯400円でコーヒーを出していますが、それって実はものすごく安いんです。例えば、400円の安いコーヒーを買ってもらった時と、4,000円の高いコーヒーを買ってもらった時のサービスって、後者の方がものすごくありがたいと思ってサービスすると思うんです。
それを置き換えて、400円のコーヒーでも4,000円分のサービスをしていこうよ、と決めて、必ずお見送りをし、お客様の顔と名前の認識はもちろん、担当者の設置などを徹底してやっています。PRチーム含め、組織の中でみんな一緒にやっているような状況ですね。

ライター・平野

なるほど!

村井さん

これまで積み重ねてきたので、その分野に関しては、今僕の手から離れてスタッフたちがしっかりやってくれていますね。

清正さん

うむ。リーダーの意思がしっかりしているからこそ、スタッフやお客さんもついてきてくれるのだな。

ライター・平野

県外でもさまざまな業種のお店をプロデュースされていますが、今後の展開を、どう考えていらっしゃいますか?

村井さん

この城下町でお店を出せば売れる、人が来る、と思ってもらいたいんですよね。だからこそ僕たちはここで圧倒的に成功して、流行り続ける必要があるし、やって欲しいことを提供していかないといけない。常にプレッシャーを感じながらやるようにしています。
そうすると城下町という地域や町屋にも価値が出てきます。例えば、町屋が5万円でしか貸せなかったものが、15万円で貸すことができたりするんです。それって目に見えないまちづくりですよね。

ライター・平野

村井さんがどんどんとお店を作っていくというよりは、いろんな人たちに外から入ってきてもらい、みんなで一緒にまちを盛り上げていく感じですね。

村井さん

熊本で体験できないことを「珈琲回廊」で体験してもらえるよう、より良いものを伝えていきたいと思っています。「珈琲回廊がやることは、なんでもかっこよく見えちゃう」という現象をつくりたいですね。

「珈琲回廊」を訪ねて感じたことは、訪れるお客さんが決して若者だけではない、ということ。小さなお子さん連れのママや、ご近所のおばあちゃん、常連のご婦人グループ、コーヒー豆だけを求めに訪れた紳士など、実に多様。そこには、城下町、再生された町屋の空間、コーヒーの香りといった要素とともに、村井さんのかけがえのない仲間、スタッフの存在がとても魅力的だからでしょう。

清正さん

いかに勇敢に戦っても、
掟に従わなかったら、何事も不用になる。

村井さんのしっかりとしたブランディングや想いが、スタッフ全員に浸透し、それぞれが笑顔で真剣に取り組んでいる姿は、まさに清正さんの下で一枚岩になって尽力する武士のような強靭なチーム。今後、城下町を起点に繰り広げられるであろう村井さんのまちづくりは、清正さんが熊本の未来を思って築き上げたまちのように、多くの人たちに愛されるまちになるに違いありません。

(取材・文/平野淑湖、撮影/今村ゆきこ)

珈琲回廊

お問合せ/096-325-1533
営業時間/10:00〜19:00
定休日/なし
住所/熊本市中央区西唐人町20
アクセス/熊本市電B系統
新町電停より徒歩3分