慶応3年より続く酒蔵に、熊本地震にも負けず未来に向かって舵をとるラストサムライがおるそうじゃ。その熱き思いをみなに伝えるぞ!

熊本のタウン情報誌で編集をしている・大瀬洸伸です。近頃、キャンプにはまっています。熊本は、水が本当に綺麗なので、いいキャンプ場がたくさんあっておすすめですよ。と、タウン誌編集者らしく熊本をPR! さて、本題へ。お酒は弱い方ですが、ちびちび色々飲むのは大好き! お気に入りを見つけたら、キャンプ用にゲットしよ〜っと♪

かつての肥後藩で飲まれていたお酒は、全部“赤酒”だった!?

加藤清正の時代より船着場の宿場町として賑わった川尻地区。今でも、白壁の古い蔵が立ち並び、風情ある歴史と文化が色濃く残ります。

「瑞鷹」川尻本蔵前の景観。熊本城マラソンのコースにもなっています

そんな川尻で、江戸時代より約150年にわたって続く酒蔵が「瑞鷹」さんです。

川尻本蔵から徒歩6分の東肥蔵にやってきました!

今回やってきた「瑞鷹」東肥大正蔵では、お酒の試飲、販売のほか、予約制で利き酒体験も行っています。もちろん予約済みです! ルンルン♪

東肥蔵で肥後の伝統酒“赤酒”を製造しているんですよ!

さっそく行ってみましょう!

テンション上がって、浮いちゃってます(笑)

瓦屋根の門をくぐると、広い敷地に蔵が並び、川尻の地で受け継がれてきた伝統と重厚な雰囲気を感じます。熊本の伝統酒“赤酒”はここ東肥蔵で作られているとのことです。

コンテナがすごい! か、かべ!
“赤酒”は熊本のお正月の屠蘇(とそ)の定番なんですよ!

お話をうかがったラストサムライ・常務取締役の吉村謙太郎さんは、国内外の数々のコンクールで入選した「瑞鷹 純米吟醸 崇薫(すうくん)」を手がけ、地元熊本での無肥料栽培の酒米づくりに取り組むなど、伝統を踏襲しながら、未来を拓く酒づくりに積極的に取り組んでいらっしゃいます。

「瑞鷹」蔵元4代目、吉村謙太郎さん
ライター・大瀬

「瑞鷹」さんといえば赤酒ですが、どうしてこんなに有名なんでしょう?

吉村さん

赤酒は昔、肥後細川藩の御国酒だったんですよ。だから江戸時代には、酒=赤酒だったと伝わっています。大河ドラマの『西郷どん』で、薩軍が川尻(熊本では)でお酒を飲むシーンがありましたけど、あれも全部赤酒ですよ。

ライター・大瀬

西郷さんも愛飲していたんですか!

清正さん

わしは飲んだことないぞ(たぶん…)

ライター・大瀬

酔っぱらってて覚えていないんじゃないですか? あ、吉村さん、赤酒は普通の日本酒とは味が違うんですか?

吉村さん

そうですね。赤酒は、清酒・吟醸酒みたいに現在の清酒造りの主流である吟醸造りとは違い、どちらかというと、甘みをしっかり出して味・アミノ酸をしっかり出すようなお酒なんです。だから、味が甘くて濃い。甘いっていうことは、その分アルコール発酵は少ないから、アルコール度数は日本酒よりもちょっと低いです。昔はそれが“普通のお酒”でした。

清正さん

まさしく、熊本の伝統酒じゃの。

“赤酒”は一般の清酒と違い、木灰を使って保存性を高めます。

震災、そして復興。
伝統に続く未来に向かって、蔵は立ち上がる!

地震直後は、公道に落ちた瓦の撤去と修復に追われたそうです
ライター・大瀬

熊本の歴史と切っても切れない酒蔵ですが、熊本地震では、その歴史にないほどの大きな被害にあわれたと聞いていますが…。

吉村さん

まず、14日に阪神淡路大震災レベルの前震があって。パレットに積んだ大量の赤酒が倒れてダメになったり、蔵の外壁が剥がれてむき出しになったり、その時点で結構大きな被害がありました。でも、まあ、あのときは熊本全体がそうだったと思うんですけど、「こんな時だからこそ!」って翌日、従業員一同一丸となって、急ピッチである程度の修復をして…。

「かなりショックが大きかったですよ」

当時を振り返る吉村さん
現在も蔵の一部は修復途中です
吉村さん

そしたら、次の夜が本震でしょ。もう、感覚が全然違いますよね。本震と前震じゃ。だって前震の後は、「来週月曜日の赤酒をどうしよう」だとか、「外の生酒どうしよう」とか、今ある在庫のことを考えて、それに胸を痛めていたわけです。でも、16日の本震のあとは、「これは会社の存続がどうなるか分からない」と…。規模が一気に大きくなりました。

約150年の歴史上、蔵は未曾有の危機に
吉村さん

幸い水が出たんですよ。水が出たっていうのは水道水じゃなくて、うちの井戸水が。うちには酒造り用の自家の井戸水がありますので。通常の水道管は割れてしまって出なかったんですが、非常用のポンプから水が出たんです。
その水を、生活用水に使用できたこと、従業員、ご近所等に提供する事が出来た事、これは本当に幸いでした。

自家井戸。幸い、非常用コックから水

ショッキングな話に、
言葉が出ません…

吉村さんの言葉には強い説得力があります
ライター・大瀬

かなりきつい状況ですよね。

吉村さん

それは不安でしたよ。もうとにかく、それから1年くらいは目先のことをひたすらやっていました。ありがたいことに、いろんなボランティアの方が来てくださって、支援物資も届けてもらいました。そして全国の酒蔵が真っ先に声をかけてくれて、酒蔵同士の繋がりというのは、ほんと、ありがたいぐらい深いです。被災蔵になって、みなさんにほんとお世話になったので、これからお返しをする事が、私たちの命題になってますね。

従業員の発案でオリジナルのポロシャツを制作
築城400年記念の際に作られた“熊本城”は、
1本につき100円が熊本城災害復旧支援金として寄付されます
ライター・大瀬

地震から3年が経ちましたが、現状はいかがでしょう?

吉村さん

震災直後とは変化し、1・2年後ぐらいが一番不安になる時期でした。修復もひとまず落ち着いてきて、しっかりと腰を落ち着けて、「新しい酒蔵にする」ということを考えていかないといけない。つまり、復旧から復興へフェーズが変わっていったときに不安に襲われました。

ライター・大瀬

「新しい酒蔵にする」とはどういうことですか?

吉村さん

うちの酒造り自体、地震の前から変わってきていることは確かでした。それは、お酒をとりまく時代の流れもあって…。はっきり言ったら、20〜30年くらい前までは、とにかくお酒は作れば売れた時代なんです。だから、昔は量を作ることが重要だった。それが変化し、お酒に求められるものが量から質へと移っていったんです。

ライター・大瀬

なるほど!

吉村さん

今は人口の減少に加えて、飲酒人口も減少しているから、その土俵で生き残ることを考えた酒造りをしないといけないんです。それと、今回、地震で被災し、同業者にお世話になった、という事もあるからこそ、みなさんに恥ずかしくない酒を一層作っていきたいと考えています。

清正さん

求められる事によって、作り手は考える事が多く、大変じゃの…。

ライター・大瀬

消費者と生産者のバランスですね。難しい!

蔵に近づくと、麹の優しい香りが漂ってきます
しっとりと涼しげな部屋に醸造タンク並ぶ

酒づくりで熊本を元気に。
新たな発想と地域愛が、大きな夢を育む

明治の大蔵は建て直され、近代的な蔵に生まれ変わりました
ライター・大瀬

酒づくりを土台にした新たな構想があると聞きました。良かったら教えてください!

吉村さん

今、考えている指針が3つあって、1つが酒蔵の観光ツーリズム。被災した醤油蔵をそのまま残して地震の経験を未来に伝えたり、一角を、赤酒を使った食事ができるレストランにしたりして、酒蔵を活用した観光周遊を構想しています。

壁のはがれた醤油蔵などを残し、地震の経験を伝えていきます
景観財産としての認定を受けた蔵
吉村さん

2つ目が、料理用赤酒のしっかりした普及と伝統酒としての普及です。そして3つ目が、地元のテロワールをしっかりと構築して、熊本の水・酵母を使った酒質にこだわるお酒を作りたいと思っています。これは、地元での米作りとその連携を目的に立ち上げた『里酒』というグループで進めています。

熊本地震から3年がたった今、蔵は“改修”と“刷新”のちょうど中間の契機にある印象。今後の蔵の未来を決定する、多くの選択とそのせめぎ合いが吉村さんの中にあり、「これからのことを、腰を落ち着けて考えたい」という言葉に、志を感じました。

プロでも難しい!
利き酒体験で本当の“味覚力”が分かる

人気銘柄がズラリ!

さて、お待ちかねの利き酒のお時間です。こちらでは、予約制で利き酒の体験も行っています。私としては、普段あまりお酒を飲むほうではないので、違いが分かるか…自信ありません(キッパリ)! でも、何事もやってみなきゃ分からないので、挑戦してみます!

清正さん

まあ、楽しむのじゃ。

いざ、利き酒体験へ!
東肥蔵敷地内にある大正蔵です
さまざまなお酒が揃っています。利き酒で気になったお酒があったらこちらで購入できますよ

大正時代に建てられた大正蔵の1階には、たくさんのお酒が販売されています。昔の酒づくりに使われていた道具、作り方の工程のジオラマなどがあって、老舗酒蔵の伝統に触れることができるんです。

利き酒の前に試飲でもしてみるか(←弱いのにやめとけって)
あの人にくまモンのカップ酒を渡してみようか(←あの人って誰、笑)
赤酒ののど飴!(←あっ!酒豪の先輩が前にくれたやつだ!)

ついつい、お土産選びに夢中になってた!
目的の利き酒会場へ♪

階段を上がって2階へ
立派な柱と梁! 圧巻です!

吉村先生登場!
(先生バージョンでお楽しみください)

吉村さん

はーい、まだ飲んじゃダメですよ〜。

●利き酒の楽しみ方1
先生がいいと言うまで飲まない!

●利き酒の楽しみ方2
先生の説明を聞き、言うことをきく

1)目の前に並んだ、銘柄を伏せた状態の4種のお酒を飲み比べします。

吉村さん

このとき感じたことを、それぞれメモする事を忘れずに〜。例えば、草の味がすると思ったら「草の味」と、段ボールの味がすると思えば「段ボールの味」と、感じたことをそのままストレートに書くのがコツです。

清正さん

段ボールの味って…。

2)次に、順番を並び替えたお酒をもう一度飲み、1回目の組み合わせに合わせて、2回目のお酒も並び替えてください。

吉村さん

飲む時間は1回5分を目安にしてくださいね〜。

「酒を舌の下で転がし空気を含ませて味をみます」

いざ挑戦!

わからん…

メモメモ…
米の味、米の味……あれ?

飲めば飲むほどわからん…

いよいよ結果発表!
ほお〜。なるほど〜
(なんか楽しそうな吉村さん

こいこいこい!

宝くじの結果を待つような気分…なぜ、笑

利き酒の難しいところは、酒の味をみればみるほど、後に飲む酒の味がよく分からなくなってくるところ。口に含んだものを吐いてもいいのですが、今回は「もったいないから」とごくごく飲んでしまった私。するとどうでしょう、味覚の判断基準がぶれるわぶれる! 

清正さん

何をやっておるのじゃ(笑)

今回の利き酒方式は、正式な利き酒の場面でも採用されているそうで、お酒に精通している人ですら完全正解は難しいというレベル。ということで、完全正解できれば、味の違いが分かる紳士として喜んでいいってことですよね! そろそろモテて、彼女がほしい!!!!

清正さん

それでこの顔だったのか…。

宝くじの結果を待つような気分…なぜ、笑
吉村さん

結果は……。

ライター・大瀬

カモン!全問正解、カモン!

清正さん

どうじゃ!?

笑うか?

泣くか?

吉村さん

「4銘柄中、正解は2銘柄!

ライター・大瀬

び、びみょう〜〜!
これは、全問不正解で終わる流れだろう〜

…気を取り直して。利き酒、楽しかったです!(感謝!)

地震を乗り越え、たくましさが増した吉村さん
清正さん

わしが生きてきた中で一つ言えるのは、誠実な人間に真の勇者が多いということじゃ。

未来に向かって歩みを進める「瑞鷹」の志は高い。清正さんの言葉にもあるように、吉村さんは「誠実」を絵に描いたような人物で、周囲からの人望も厚い。創業から約150年。肥後の御国酒を担い、未曾有の危機から再び立ち上がる酒蔵を支えるラストサムライは、太い絆で結ばれた地域や仲間たちを大切にする人間性を持った人でした。酒づくりの新時代。楽しみにしています。

吉村 謙太郎さんがオススメする、
近所のラストサムライ

珈琲あずま

珈琲あずまさんをはじめ、川尻にはラーメンや鰻、和菓子など美味しいグルメがたくさんあります。

TEL:096-358-0022
住所:熊本市南区南高江6丁目13-22
営業時間:10:00~20:00
休み:月曜
席数:17席
駐車場:3台※共同駐車場あり

瑞鷹酒店

お問合せ/096-357-7251
営業時間/10:00〜17:00
定休日/月曜
住所/熊本市南区川尻1-3-72
アクセス/JR鹿児島本線川尻駅徒歩9分