利き酒師とソムリエの店主夫妻
仲睦まじき夫婦愛と郷土愛
幸せあふれる酒屋さん
訪れたのは万町にある「川上酒店」。清正さんが計画して作った“古町”と呼ばれる界隈には、呉服町や米屋町、魚屋町、細工町など取扱う品目や職種などを表す町名が多く、また街の区割りも当時のままなんです。そして、ここはその中の“万町(よろずまち)”。「よろず」は、「数が非常に多い、種類や形がさまざまである」など、「たくさん」という意味を持つだけに、昔は、雑貨や生活必需品など、さまざまな商品を取り扱う商店が並んでいたそうです。
そんなことを想像していたら、酒屋さんはピッタリの町名です。おお、店のすぐ近くには、明治10年に酒の醸造場として建てられた歴史的木造建築物「早川倉庫」もある。商店は減ってしまったけれど、趣のあるいい町だな~。
ようこそ、万町へ
「川上酒店」は利き酒師の川上靖さんとソムリエの千恵さんが経営する酒屋さん。店頭で、着物姿のお二人が出迎えてくれました。(二人で着物って、すでにラブラブ感が伝わってきますね~)
え?もうちょっと寄って
お二人を見たいって?
はいはい、寄りますよ。
着物が超似合う美男美女のお二人は、界隈でも有名なおしどり夫婦。まるで映画の撮影を終えた俳優さんと女優さんが並んだみたい。奥ゆかしき風情もあるお店と相まって、正直その雰囲気に圧倒されてしまいました。ご主人の渋さは、男なら誰しもあこがれるはず! こんな美しい奥様をもらって、うらやましいぞ!
ほう、噂通りのべっぴんさんだな。
(奥様しか見てないな、笑)
「川上酒店」は利き酒師の川上靖さんとソムリエの千恵さんが経営する酒屋さん。店頭で、着物姿のお二人が出迎えてくれました。(二人で着物って、すでにラブラブ感が伝わってきますね~)
見とれてる場合じゃない、
よし、まずはお店の歴史について
お聞きしないと!
この町といい、店の佇まいといい、お二人の雰囲気といい、古くからの老舗感が伝わってきます。靖さんで何代目になられるんでしょうか?
いや、うちは老舗ではないです。サラリーマン時代にバーボンにはまっちゃって、かなり好きだったんですね(笑)。それが高じて、25年前に脱サラして始めたんです。
ええ! そうだったんですか! わー、知ったかぶりしちゃいました。恥ずかしい~。
ほぉ、二人のセンスの良さじゃろうな。わしも居心地が良いぞ。
少し肩すかしをくらった感があったのですが、お話をよく聞くと、実は靖さんの先祖は、祖父の代まで市内の違う場所で酒屋さんを営んでいたそう。老舗、と言えば老舗ですね(←無理矢理、老舗にしようとする、笑)。とは言え、今の「川上酒店」さんの魅力を築いたのは、二人三脚、ご夫婦の愛の力があってこそ。
(言いにくそうに…)開店時は、妻はもちろんですが、亡くなった父の手助けも大きかったです。会社を辞めて酒屋を始めたいという私の思いを受け、方々に動いてくました。例えば、酒屋の開店には、許認可など、さまざまな条件をクリアする必要があります。それは、本当に面倒で時間がかかることなんです。ただ、タイミングよく、この場所で酒屋を経営していた方が廃業すると聞き、父が権利を譲ってもらう交渉をしてくれて、無事に権利を引き継ぐことができたんです。
ちなみに靖さんは、脱サラ前は有名アパレル会社で服飾関係のお仕事をしていたと言います。なるほど! 川上さん夫妻の佇まいもそうですが、お店のどこそこに漂う洒落感に、大きく納得です。
それにしても、美男美女ですね。ご主人と奥様の仲がいいのが先ほどからヒシヒシと伝わってきます。
えっ!? はい、妻は外見からひっくるめて理想のタイプなんです(照れ笑い)。
おお、ストレート!
サラリーマン時代に広島で出会った時に一目惚れしたんです。
……(照)
妻の実家は食堂なので、客商売に慣れているというか、店を立ち上げた時からずっと心強い存在です。家庭においても、もちろん感謝でいっぱい。子育てが一段落したら、自分から興味を持って難しいソムリエの資格もとってくれたし。言うことなしの愛妻です。
デレデレじゃな。
改めて聞かれると恥ずかしいですね(笑)。主人は、子どもが大好きで、4人の子育ても積極的に協力してくれて、料理もとっても上手なんですよ。うーん、お互い半人前なので二人で丁度いいのかな?
よく女性に聞く質問ですが、あえて靖さんに。得意料理は何ですか?
最近、タイ料理に凝っています。トムヤムクン、ガバオライス、カオマンガイ…
私も大好きな料理で、2人で辛い料理にヒーヒーしたい時におねだりしちゃいます。
聞いてるこちらが、にやけてしまいますね。
まだ飲んでいないのに、顔が赤いぞ(笑)。
恥ずかしがりながらも可愛らしく答えてくれる千恵さんに、それを嬉しそうに見つめる靖さん。二人の仲の良さが醸し出す暖かい雰囲気。ここでは美味しいお酒が飲めること間違いないと確信!
唎き酒師の靖さん、ソムリエの千恵さん
二人のプロが選んだ
ラインナップがスゴかった!
ありきたりな質問ですが、酒の取り揃えには、どんなこだわりはありますか?
いろんなお酒を置いていますが、熊本県産を網羅したいという思いがあります。地元のお酒は球磨焼酎全蔵元から、日本酒、ワインまで幅広く揃えています。最近の熊本のワインはかなり評判いいですよ。自信を持っておすすめ出来ますね。
熊本のお酒を網羅したいですね~
熊本ワインも評判いいですよ~ (うんちくが止まらない!)
(30分経過……)
はっはっはっ。
お酒の話をするのは楽しいですね~
(まだ、止まらない…)
と、何組かのお客様が来店。ほっ。
お盆で人が集まって刺身もとったので、合う酒なんかないですかね。
あぁ、それだったら間違いないのはこれかな。少し辛口だけどこの時期の魚にはよく合うはずですよ。
じゃ、これでいきます!
(決まるの早い!)
それだけお客との関係が築けておるのだろう。
まずは若いお客さん、次は渋めの旦那さん風情のお客さんと、次々と訪れるお客さんに、靖さんが間髪を入れずに手に取るおすすめを、お客さんは矢継ぎ早に抱えて店を出て行きます
(そろそろ、次の話題へ…)
日本酒セミナーとワインセミナー
大人の学びの場は、
何やら楽しい飲み会のようだ
店では利き酒師の靖さんとソムリエの千恵さんが、それぞれ日本酒とワインのセミナーを定期的に行っています。利き酒のセミナーは座学とテイスティングの構成で、座学には県内の蔵元の代表なども講師として参加することもあり、作り手との時間は貴重で、お互い学ぶことも多いといいます。
今回は特別にテイスティングの体験をさせてもらいました。ワクワク! 実はこれが楽しみだったんです(笑)。
だろうと思っておったぞ。
お酒に囲まれたセミナー空間!
まずは日本酒のテイスティングを…
ん~~!
香りをかいだだけでも美味しいのが分かります。
そうなんですよ。このお酒の蔵元は....。使うお米は.....。お水は.... と、そんな所に特徴あります。 だいたい江戸時代からこの地域のお酒は.....の特長があって.....。だから香りもいいでしょ!
ヤバい、マシンガンすぎて聞き取れない(焦)
こら、飲んどらんで聞き取らんか!
いやいや、こういうのは、ご本人に直接聞く方がいいんです。
お酒の事について靖さんが話し出すと、また止まらない。靖さん、いつの間にか飲んだ?と思うくらい上機嫌。マシンガンのように歴史を絡めながらうんちくを語ってくれます。
「靖ワールド」(←なんじゃそれ!)に、
どんどん引き込まれていく!
五臓六腑に染みる~~
出てくる、出てくる!
(お酒もだけど、うんちくも)
さて、次は千恵さんのワイン講座。「主人がしゃべりすぎたから、私は控えめにしますね」と、ワインを注ぐ姿に品があり、その画に見惚れてしまいそう。
和服にワインも合う!
注ぐお姿も美しい!
グラスの持ち方を教わり
色を見て香りを嗅ぎ
グラスを傾け回して
空気に触れさせると香りが立ってくる
かんぱ〜い!
ん~~、おいしい~~
熊本のワインも本当に美味しいんですよ。農家さんが畑作りから行ってこだわって作る上質な葡萄を、丁寧にワインにしています。料理に良く合い、フランスのワインと比べても本当に遜色ありません。私としてはうちのワインの柱にしていきたいとも思っています。
肥後にもよかワインがあるとな。誉れ高きことじゃ。
お話を聞いて飲むと、さらにおいしい!
よく飲むな~
よしよし、 そろそろわしにもよこさんか!
……(聞こえないふり)。
セミナーは5年半ほど前から行っていて、延べで200人程の参加者がいます。
選りすぐりのおいしいお酒を飲めるのでセミナーは盛り上がるでしょう?
お酒を飲みながらのセミナーは会話も弾み楽しいですよ。余談ですがセミナーを通じて知り合い、お付き合いを始めたラブラブカップルも何組かいらっしゃいます。
まさに、おいしいお酒が取り持つ縁ですね。私の予想だと、お二人のラブラブさが伝染して、参加者が「結婚っていいな〜」って気分になったんじゃないですか〜。ヒューヒュー♪
おぬし、酔うとるな(笑)。
お城の復興は心のよりどころ。
子どもが幸せで、お酒が飲めたら私たちは十分幸せ!
地震で壊れたお城を見るのは辛いけど、お城の復興へ向けて躊躇なく取り組まれたことは、それだけでも前を向くための大きな力だと感じます。
熊本地震で、お店の壁が落ち、7割ぐらいのお酒が割れ、被害も相当だったという「川上酒店」さん。前震が来た後すぐ、東京に住む大家さんが電話をかけてきて、迅速に手続きを行ってくれ、さらには、地震後しばらくの間、家賃の免除を申し出てくれたそう……。感謝しても感謝しきれないとお二人は目頭を熱くして話します。(先が見えないときに、こういう心遣いは本当に嬉しいですよね。涙、涙)
そして、びっくりしたのが、その話を聞いた直後に、その大家さんが突然来訪された事! 不思議なこともあるんですね。ほろ酔いの私は、それでまたまた幸せな気分に。やはり世界はマジカルで美しい!
最後にこれからの目標や抱負を教えてください。
以前からずっと同じ気持ちですが、地域を愛する気持ちを持ちながら、地域に溶け込み、観光客の方に熊本の良さを伝えていくことです。だからこそ、熊本の魅力を外に向けてもどんどん発信していきたいですね。それと、僕自身は子どもが幸せでいてくれて、毎日おいしいお酒が飲めればそれだけで十分幸せです。
私も同じです。十分幸せ。
自分はもうすでに足りていると信じ、自分より周りの幸せを願うお二人の言葉に嬉しくなった。それこそまさしく、自らに質素を課したかつての武士が良しとした心持ち! また、それがこの店に人が集まる理由なのかもしれない。もちろん靖さんが上機嫌になって話すお酒話のユニークさも大きそうですが……。少し酔いを感じつつ店を後に路面電車の電停まで歩く。途中、近くの寺の鐘が「ゴーン」と鳴った。暖かくじんわり響く鐘音だった。
汝らは、等しく我股肱腹心なり。使うところはその器に従う。
清正さんが築いた古町で酒屋を営む川上さんご夫妻。靖さんは酒を注ぐお猪口。千恵さんはワインを注ぐグラス。それぞれの器をもって、訪れる人に幸せを与えているのです。古き歴史のある町で、お互いを尊敬し、マリアージュしたことで生まれる幸福の輪が人々を魅了する。それはそれは、美しい絆で結ばれたご夫婦です。これからも末永くお幸せに。
川上靖・千恵さんがオススメする、
近所のラストサムライ
- 魚よし 岡崎嘉人
-
大正10年創業の呉服町の「寿司・割烹 魚よし」4代目ご主人。受け継いだ教えを守りながら素材にこだわったお寿司を提供しています。男気がありながら優しい人柄も魅力的です。
TEL:096-352-4062
住所:熊本市中央区呉服町2-22
営業時間:11:30~14:00/17:30~OS21:30
休み:水曜
席数:24席
駐車場:2台
- 松魚村平 嶋村誠次朗
-
呉服町の老舗の鰹節屋。手作りの削りたての鰹節にこだわりを持ち、 また呉服古町町栄会の副会長として地域おこしの活動を精力的に行っておられます。
TEL:096-322-4380
住所:熊本市中央区細工町3-39
営業時間:9:00~18:00
休み:水曜・日曜、祝日
席数:なし
駐車場:2台
川上酒店
お問合せ/096-326-1568
営業時間/9:00〜19:00
定休日/日曜、祝日
住所/熊本市中央区万町2-3
アクセス/熊本市電呉服町電停より徒歩3分
こんにちは。ライターの徳永です。趣味は早弾き系じゃないロックとサウナ通い。ブルースを聞きながらちびちび飲む酒も好物です。酒の達人、しかもご夫婦に会えるとあって楽しみです。では行って参ります!