二度見しちゃう!
ノスタルジック感漂う書店&喫茶
清正さんが発した「ブックカフェ」に違和感を感じながらも、好きが大渋滞している目的地に期待が膨らみっぱなしのライター・大塚です。しかし! 「市電」と呼ばれる路面電車の中、揺れる車内で、この興奮を悟られるわけにはいきません。平気な顔をして乗るのが、スマートな大人なのです(と勝手に思い込み、一駅一駅目的地に近づきます)。
到着したのは、新町にある「長﨑次郎喫茶室」さん。「ん?熊本なのに長﨑?」と、一度はつっこませてください。市電の「新町駅」に降り立つと、すぐ目の前に現れます。
路面電車の線路沿いに佇むレンガ造りの貫禄ある建物。かっこよすぎてゾクゾクします。前述した通り、この建物の一階は「長﨑次郎書店」という書店。二階に「長﨑次郎喫茶室」という喫茶店があります。
お店に入るまでも、照明や看板、雰囲気に圧倒されます。どこもかっこいい…。
では、いざ店内へ!
「はい、いらっしゃいませ〜!」
目の前をおいしそうなデザートが横切り、シックなインテリアと店員さんの明るい雰囲気がなんだかいい。店内は大きな天井の梁と、たくさんの本、古びた窓枠など、喫茶店としての雰囲気は十分です。窓側の席が良さそうなので座ってみると、このお店が人気だという理由が分かりました。
ゴトゴトゴトゴト…ん?
窓から市電が丸見え!
おお! 先ほど乗っていた動く箱ではないか!
上から見たのは初めてです! なんだか幸せ〜。
なに、このノスタルジック感
夕暮れのロケーションと相まって、胸にグッとくる風景が広がっています。写真好きでなくても、これはカメラに収めたい! わあわあと興奮しているところに、店主夫妻の登場です。
どうも〜、私たちが長﨑夫妻でーす!
※写真がそんな感じですが、お二人は普通に登場されました(笑)
穏やかな雰囲気をまとったお二人。2014年のオープン当初からこの喫茶室を夫婦で切り盛りしているそうです。この素敵な建物と喫茶室の話を伺わずにはいれず、いろいろ聞いてみることにしました。
長い歴史と深い文化、
さらに震災。店主の思う事とは…
この建物は1924年(大正13年)に当時のスター建築家である故・保岡勝也の設計によるもので、国登録有形文化財にも指定されているんですよ。
ということは…この建物自体は建って95年目くらいですか?
そうですね。ただ、書店自体は1874年(明治7年)創業の老舗書店なんです。その後、2013年に一度その歴史に幕を降ろしたものの、創業140年を迎えた翌2014年に再オープンを果たしました。
ひゃ、140年⁉ ということは今145年ということですよね…思ってたより歴史が深くて驚きです。
意外に長い歴史じゃの〜。
この建物を管理しているのが私なんですよ。屋号にもなっている創業者・長﨑次郎からすると私は6代目になります。元々は、明治5年の学制発布を受けて、創業者である長﨑次郎が教科書を扱う書店を開業しました。そして最近まで政府刊行物を扱う書店として営んできましたが、2013年に休業。2014年7月に、一階を一般書店「長﨑次郎書店」として復活。同年10月に2階を「長﨑次郎喫茶室」としてオープンさせました。
そうなんですね! 喫茶室の雰囲気が尋常じゃないくらい好きなんですが、この老舗感というか洋館のような雰囲気というか…。(オープンから)たった5年でここまでの雰囲気を出せるのかなって不思議に思うんですけど…。
建物のおかげです。私の母の居住空間だったんですよ、実は。
え! お家だったんですか⁉︎
今とは全然違うんですけど、この窓は変わらないですね。窓からの眺めをたくさんの人に見てもらいたいと思っていたし、「この空間を利用して、たくさんの人のお役に立てたら…」という母の希望もあってですね。
素敵なお母様じゃないですか(涙)!
長﨑さんは喫茶店での経験があったんですか?
いえいえまったくの素人です。この建物の目の前に「次郎楽器」とあるでしょう? 見えます? そこを営んでいるんですよ(笑)
うそっ! 楽器と喫茶って、ジャンル違いすぎますけど…。
怖いもの知らずじゃな…。
書店の上で喫茶店をすれば、ゆっくり眺めを楽しめるかなと思って。まさか飲食店をしているなんて、創業者の次郎さんもびっくりだと思いますよ(笑)
(まさか、自分がここで景色を楽しみたいから…なのかな)
仰る通り、この喫茶店にはこの窓からの景色を求めて、熊本県内はもちろん、県外からも旅人がひっきりなしに訪れているとか。だって素敵だもん!
これだけの建物、2016年の熊本地震では被害はなかったんでしょうか?
もちろんありました。お皿も三分の二は割れたんじゃないかな。後、まだ補修工事が終わってない部分もあって…。ただ、梁や天井はビクともしなかったんですよ。地震があった当初は、数日は営業再開は難しいと思ってました。片付けをしてたら、近所の方から、「お店を開けてもらわんと困る」「避難所生活は息が詰まる」って言われたんですよ。お客さんが喜んでくれるならと、紙コップや紙皿で営業したんです。その時は、近所の皆さんがコーヒー片手に嬉しそうな顔をしてくれて。それが本当に嬉しかったんです。だから結局地震の影響でお店を閉めたのは2日間だけでしたね。
それは、地域の皆さんにとっても、さぞホッとできる時間だったでしょうね。
喫茶店なんて嗜好品だから、すぐ開けるなんて…と思っていたんですけど、ここまで喜ばれるのかと、本当に感動的な経験でした。なので、震災で苦労したというよりも、いい思い出に昇華できました。
うむ。立派な心がけじゃ。
地域に愛され、
地域に寄り添うちっちゃな書店
すごくいい話が聞けたところで、一階の書店のことも知りたくなったので聞いてみました!
建物全体を管理されているということでしたが、一階の『長﨑次郎書店』も圭作さんが?
いえいえ! そっちは、はとこ(再従兄弟)がやっています。上通に「長﨑書店」(明治22年創業)という支店があり、そこの社長でもあるはとこの健一君がやってくれているんです。
上通の書店も、お洒落で人気ですよね。
ありがとうございます。代替わりして、いろいろなことにチャレンジしているみたいです。一階の書店は、「次郎さんが残してくれた建物を、みんなで守らないといけない」という健一君の言葉にみんなが同意し、復活する流れになったんです。まぁ、書店のことは書店に聞いてみてください。
ということで、書店に突撃!
小さな店内には、文庫本や雑誌をはじめ、実用書や写真集など数多く品揃え。絵本を読みにくる近所の子どもたちや、建物の雰囲気を好んで通う人など、書店を訪れるお客さんもさまざまです。お話を聞くと、客層は近所の人がほとんどということで、日常の生活に近い本が多いのも「生活圏内の本屋」を目指している感じがします。
勝手に新コーナー!!!!!
本好きライター・大塚が勝手に選ぶ
長﨑次郎書店の良いところ、ベスト3!
ジャジャンッ!
地域のお祭りの写真が飾られている!
続いて、ジャジャジャンッ!
ギャラリーでアート展を開催!
最後はこちら!
ジャジャジャンッジャンッ!
(少々、息切れ…)
子どもがちょっと遊べるスペース
これぞ喫茶店!
ノスタルジックが止まりません
さてさて。喫茶室に戻りまして、少しお腹も空いたのでいろいろとオーダーしてみることに!
喫茶店といえば…ナポリタンでしょ!
ええ!このビジュアル、
絶対おいしいやつだ…
期待を裏切らずおいしい。正直ナポリタンって、お店でそんなに味が変わらないと思ってたんですが、訂正させてください。違いますね!
そんなハッキリと⁉ 気になるぞ。
舌でおいしい、と感じることよりも、お腹の底から"おいしい"と感じるというか。これ、きっと、お母さんの味に似てるんですよね。ケチャップの味とか、ウインナーの味とか。一見普通のナポリタンなんだけど、完全に母の味ってことじゃなくて、濃すぎず、薄すぎず、やっぱりそこはお店の味。ソースと具材のバランスが本当に良くて。今やナポリタンが定番で食べられる店って貴重ですよね。
喫茶店といえばのメニューですからね。フードメニューで一番最初に決めましたよ。
美味しさもなんだけど、上に乗ってる輪切りのピーマンの愛らしさを相まって…もう、大好きです!
すみません、カレーも気になるんですが…。
カレーね。実は結構こだわっていて。まぁ、食べてみてください。
「これこれ! 喫茶店のカレーはこうでなくっちゃ!」的なビジュアルに、こちらも期待大。
うわぁ、美味しい。
喫茶店のレベルを超えている!
(あくまで個人の感想です、笑)
めちゃ嬉しいですね(笑)。でも隠し味は、企業秘密です。自分がおいしい、と思う味を提供しています。
ビーフもゴロゴロ大きくて満足感があるし、風味が抜群にいいです。私の勘なんですけど、トマトは入ってますよね? 深いコクの中にどことなく酸味があって。それが食欲をグッと増進してくれてます。あとこの味の厚み、なんだろう。バターかな?
黙秘します(笑)
その茶色いの、食べたいぞ…。
ナポリタン、カレーがこんなに美味しいのなら、ドリンクも最高なんじゃないか?と、思い切って2つ頼んでみました。
「これぞクリームソーダ!」という出で立ちで登場したこちら。見よ、この完璧すぎる喫茶店の画力(えぢから)。お手本のようなメロンソーダフロートが目の前に登場した途端、たちまち破顔。しゅわしゅわ、クリーミー。喉がきらきらと澄み渡るようです。
さらにもうひとつ。銅のカップに入ったカフェ・モカ。うーん、申し分ないです。本を片手に、ごくごく。こんな日常、羨ましいなと思います。はい。
いかがですか?お味は。
全部好きです! お味もなんですけど、雰囲気もあって、さらにおいしく感じます。喫茶店って、いつでも受け入れてくれるような寛容さを感じるんですが、こちらはどれもおいしくて、居心地も良くて、なんだかずっと居座りたいくらいです。
いやぁ、嬉しいなぁ! 実はおすすめのデザートがあってですね…。
いただきます!
(よく食べるな、この娘…)
オリジナルメニューの、アイス珈琲ぜんざい・バニラのせです。男女関係なく、人気のメニューなんですよ。
これ、どうなってるんですか?
どうって…ぜんざいに、コーヒーを入れてます。
え!
おいおい。大丈夫か?
私、コーヒーあまり飲めないんですよ、実は(笑)。飲むと眠れなくなっちゃうんです。
そんな子どもみたいな理由!?
妻は大のコーヒー好きなんだけど。冗談のつもりでコーヒーにぜんざいを混ぜて食べてみたら、すごくおいしくて。それからよく食べてたら、スタッフの一人が、お店で出したら?ってことで始まりました。
…長﨑さん、コーヒー飲めないんですね。そこにびっくり! でも、このぜんざい、スッキリしてておいしい! コーヒー飲めない人というか、ぜんざいが苦手な人にとってもこれはイケるんじゃないかな。いやぁ、全部おいしかったし素晴らしかったです。ごちそうさまでした!
よかったです。いい食べっぷり!
よく食べるんですけど、上に延びないんですよね〜。奥さま、可愛くって素敵な方ですよね。馴れ初めを聞いても良いですか?
お見合いなんですけどね。彼女の家が同じ新町で呉服屋を営んでいて、元々は遠い親戚なんですよ。
ええ⁉ でしたら、書店なんかも昔からご存知だったんですか?
中学生の時に本を買いに来たりしてたんですよ。その時、同じ顔の人が2週続けて対応してくれて。のちにお見合いで発覚したんです、彼が双子だってことが(笑)。
私、双子なんですよ。要するに、わたしの方が印象が良かったってことです(笑)。
なにその話、なんてドラマチックなんですか!素敵って言葉じゃ足りないです!いろいろごちそうさまです!
え?圭作さんが二人いる!?
次郎さんの名前は
自然と守っていくものだと思っていました
おいしいものを当たり前のように提供し、地域の人も旅人も、寛容に受け止めてくれる喫茶室と長﨑さんという人。分厚くて柔らかい空気に包まれているような感覚になりました。
今日は本当にありがとうございました! 戦争、震災と、幾度と訪れる危機を乗り越え、長﨑次郎という名をこの熊本・新町に残している長﨑さん、本当にかっこいいです。
残そうと思ってるとかじゃなくて、残すのは当然っていう感覚です。私はもちろん、母も次郎さんには会った事がありません。なので、強く意識した事もないんですよ。ただ、幼い頃から"次郎さん"という名前は当たり前のように耳にしていて、自然と守らなくてはいけないなと年を重ねる度に思いが強くなっていきました。あ、ちなみにこの店のオープン時間、なぜ、11時26分か知ってます?「イイジロー」なんですよ、ハハハ!
(「今さらジロー」みたいに
言うな……)
なるほど。守るべきものがあるって、なんだかサムライみたいですね!
サムライか…いいですね! この先、自分の子どもや親族がこの店を継ぐとしても、長﨑次郎の名前は残してくれると信じています。
人は一代、名は末代。
あっぱれ武士の心かな。
喫茶室がはじまって5年だけれど、背負う歴史は140年以上。次郎さんは、会った事もない人だけれど、先祖を敬う長﨑さんたちには、残された物語に新しいページを加え、残された資源に新しい時を刻む、という歩みを「止める」という選択肢はないようです。受け継ぎ、守り続ける長﨑圭作さんたちがいるこの喫茶室で、これまでの140年と、これからの140年を繋いでいくことでしょう。
長﨑 圭作さんがおすすめする近所のラストサムライ
- ふじき本店
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お米に対するこだわりが強く、おにぎりも美味しい。遠方からもおにぎりを求めてこられる方も多く、昔から愛されているお店なので。
TEL:096-352-0950
住所:熊本市中央区新町4-2-73
営業時間:9:00~18:00
休み:日曜、祝日
席数:なし
駐車場:なし
長﨑次郎喫茶室
お問合せ/096-354-7973
営業時間/11:26~18:00
定休日/なし
住所/熊本市中央区新町4-1-19-2階
アクセス/熊本市電 新町電停徒歩1分
私、ライターの大塚です。趣味は本を読むこと、写真を撮ること、旅をすること。地域に残る味のあるお店や、人とのふれあいが好きで、時間を見つけては出かけています。もちろん古い建物や喫茶店は大好物で、今回の目的地は、下は書店、上は喫茶室という、好きが大渋滞してる一軒! かなり興奮してます…。では、行って参ります。