熊本のある老舗から生まれた履物が人気だそうじゃな。むむ! 興味深いぞ!

ライター・徳永

こんにちは。ひとつ結びの髪型がチャームポイントの、サムライに憧れるライター・徳永です。へぇ〜、そんなに人気の履物があるんですね! 湯巡りが趣味の私。湯上がり用にピッタリの草履が欲しいな〜なんて考えていたので、丁度よかった♪ いってきま〜す

110余年続く老舗履物店で発見!
履けば元気になるかもしれない進化する熊本の技!

飾っておきたくなる、圧倒的な存在感!

今回訪ねる「武蔵屋」さんは、かつて呉服商が多く住んでいた事から「呉服町」と名付けられた、歴史の町にあります。創業は明治。110年以上続く老舗履物店です。草履や下駄と聞くと、どうしても「和服じゃないと似合わない」「伝統工芸品で敷居が高い」と思われがちですが、実は近頃、熊本のお洒落さんたちの間で密かにブームになっているらしいんです。ただ、噂に聞くところによると、「履物作り一筋の昔かたぎの職人」ということなので、いいおっさんの私も緊張気味にお店の扉を開けました。

落ち着いた和の風情漂う店構え。老舗感がヒシヒシと伝わってきますね〜
ディスプレイには下駄や草履がズラリ。あ、この絵はご主人かな? どんな人だろう……

「ごめんください〜(心臓バクバク)」

「あっ!人がいる!この方かな?
この方に違いない!」

飴色に輝く店内。奥にご主人が座っています。見えます?

「いらっしゃい!」

えっ!にらまれてる?
ライター・徳永

お、お邪魔いたします……

清正さん

ちょっとビビり過ぎじゃないか?

歌津さん

まぁ 遠慮せんでこっちきなっせ。

ライター・徳永

あ、ありがとうございます(でも、緊張するよ…)

店内は、下駄、下駄、草履、草履……すごい数です
ライター・徳永

こちらにオリジナルの履物があると聞いてお邪魔したのですが。

歌津さん

ああ、あるよ!

ライター・徳永

(なんか、ドラマにこんなシーンあるよね…)

清正さん

(シッ! ドラマ名は言うでないぞ!)

人気が爆発しているという履物は、ご主人が考案した竹皮草履・竹皮下駄

歌津さん

約800年前に竹の皮を使った草履らしいものが愛用されていたそうです。それをヒントに、私なりに作ったのがコレ。竹の皮を編んだ履物で、足の裏を刺激して血行が良くなるよう、編み方を工夫しました。素足で履いた感触が良く、夏には涼しく、冬には温かい性質です。さらに、水に強く、殺菌効果もあり、とても丈夫で長く履けます。

人気の竹皮草履・竹皮下駄
ライター・徳永

800年前の履物が、現代で進化してよみがえったんですね。スゴい!

清正さん

主人、なかなかやり手じゃな。

変わっていく景色と
進化する技術が融合する呉服町

作業をしながらも、質問に丁寧に応えてくれる歌津さん。御年85歳!

冒頭に、「熊本のお洒落さんたちの間で密かにブームになっている」と書きましたが、取材中にも20代くらいのカップルをはじめ、数人が来店し、草履を物色したり、注文していた下駄を受け取り、嬉しそうに店を後にしていました。昔からファッションの町と言われている熊本ならではかもしれませんが、伝統工芸品を今の流行とコラボさせるなんて、やるな!(←何様、笑)

ライター・徳永

下駄一筋の歌津さんと聞きますが、この仕事を始められたのはいつ頃からですか?

歌津さん

私で3代目になります。熊本工業高校の染色科を卒業後、岐阜の繊維会社に就職しました。昭和28年の熊本水害で店が被害に遭ったことを機に熊本に帰る事に。その頃は、母がこの店を切り盛りしていたので、私が継ぐ事になったんです。もう70年も昔の話です。

約70年間、技術を磨き続けてきた職人の手は美しいです
鼻緒挿げの名人である証拠に、大阪の履物業界から授与されたという認定証がこちら
ライター・徳永

地震の影響もありますが、町も変わってしまいましたよね。歌津さんが若い頃は、どんな街だったのでしょう?

歌津さん

店先に沿って木レンガがありました。そして、道向かいの建物裏の川には船着き場もあり、荷物の揚げ降ろしで賑やかな町でしたよ。料亭も多かったな〜。

木レンガの歩道があった中唐人通り! さぞ風情があったことでしょう
ライター・徳永

料亭も多かったんですか。そりゃあ、昼夜賑わってたんでしょうね。

歌津さん

そうよ。芸者さんも多くて、ここは呉服町で呉服屋さんも多かったから“花の町”と呼ばれていました。よく店にも、鼻緒を直してくれと芸子さんが来てましたよ。当時は、まだ下駄を履いている人も多かったから、木道から“カランコロン”と音がようしよったな。

昔の界隈の様子を模して書かれたという絵が飾られています

景色は変わっていったけれど、ここには熊本で昔から履かれている「肥後の駒下駄」が今も売れています。

歌津さん

細川藩の藩士が履いていたという下駄で、「出世下駄」とも言われているものです。熊本で昔から履かれており、今では作っているのはうちだけになりました。

檜を使った駒下駄。1本の木を切り出して仕上げるため、木の継ぎ目がなく美しい
清正さん

見事な仕上がりじゃ。

職人が静かに伝え続ける
“粋”な時代の心意気。

山葡萄の蔓を編み込んだ下駄

さらに、今では希少な山葡萄の蔓で作る下駄は、あの!横綱・鶴竜関にも作ったことがあるそうです。履き心地は抜群で、耐久性にも優れているので、一生ものです!

せっかくだから、私も草履を履かせてもらうことに。歌津さんは、人を見ただけで足のサイズを当てるという特技がある事を聞き、おそるおそる。

ライター・徳永

私の足のサイズわかりますか?

歌津さん

あんたは26.5ぐらいだろ。

ライター・徳永

うっ 当たってます。ドンピシャ! どこを見ると分かるんですか?

歌津さん

ふふふ、ただ分かるとたい。どこを見てといわれても分からん。

エスパーっすか!?

「なんさま分かるとたい!」と熊本弁炸裂の歌津さん。
本文は、だいぶ修正させていただいています(笑)
ライター・徳永

そうですか……(いかん、これ以上聞いたらダメなやつだ)

歌津さん

職人の世界は、理屈ではないのだ。

ライター・徳永

サイズだけでなくて、『お客様が「どんな鼻緒が好きか」も、すぐに分からんとダメ』と、先代によく鍛えられたものです。

歌津さん

さ、これば履いてみなっせ。

ライター・徳永

(おお、選ばせる隙を与えない!)

いくつになっても初めては嬉しいですね。こう見えてハシャイでます

まずは、竹の皮の草履を履いてみます。

ライター・徳永

感触が気持ちいいですね。ちょっと小さい感じもしますが…。

歌津さん

かかとを少し後ろに出す履き方が粋だよ。そのサイズで丁度いいはず。

ライター・徳永

なるほど! そうなんですね。(ご主人言われたら、間違いないだろう)

清正さん

そうそう、“粋”は大切じゃよ。

歌津さん

お相撲さんが履いているように、鼻緒を指で挟んで履くのが粋な履き方です。

続いて、和紙を使った下駄を

和紙とは言え、丈夫なので安心して履けます

他にも、バリエーションを含め豊富な種類が揃っています。左右がないので交換しながら履くと、長く愛用できるのは嬉しいですね。また、下駄底にはゴムを貼ってあるので、あまり音がしません。状況や履き方も時代とともに変化しているようです。草履や下駄のニーズは、昔に比べて減ってしまったものの、根強いファンと、新たに魅力を知りこの世界へ飛び込んでくる人もいるというから、ちょっと安心しました。

粋な履物の数々。日本人なら一足は持っていたい!
これ全部、鼻緒!もちろん、歌津さんはすべて把握しています(やっぱりエスパー!?)
清正さん

自分のばかり物色せず、わしにも見繕わんか!

ライター・徳永

あ、忘れてました!

ちなみに、職人気質の歌津さん、お客さんのオーダーを断ることもあるそうで、こんな面白いお話を聞けました

歌津さん

「鼻緒ばなめるな」という言葉もあるのを知っていますか?

ライター・徳永

どういうことですか?

歌津さん

鼻緒には格というものがあるんです。

スタッフ

下駄の台との相性などがあって、お客様からこの鼻緒を付けて欲しいと言われても、時として頑なに譲らず、怒って帰られることもあるんですよ(苦笑)

歌津さん

職人はもっこすだけんね。
注:「もっこす」とは熊本弁で「頑固者」という意味です

ライター・徳永

(自分で「もっこす」って言うて、相当ですね…)

スタッフ

いろんな事を考えて、その鼻緒を選んでいるのですが、「これが好きだから替えてくれ」という理由だけで応じないということもあるんです。また「汚れたから替えてくれ」と言われても、「まだ使えるからこのまま履きなっせ」と言って譲らない。常連の方は大将がそう言うんだからと納得してくれますが…。

清正さん

道理というものはある。あっぱれ あっぱれじゃな!

うーん、売ってなんぼがあたり前のこの時代、まさにシーラカンス的な昔ながらの頑固さ。こんな人が残っていることを嬉しいと思うのは私だけ? ますますこの親父さんがかっこよく見えてきました!(すっかりファンです)

「もっこす」×「職人」=最強!?

第一印象の「怖い」から「尊敬」に変わりました!

次世代へのバトンを。
残していきたい伝統の技術・文化。

歌津さん

日本の下駄や草履の文化は残していかないといけないと思っています。今、孫が修業中なんです。

ライター・徳永

仕事を教えていらっしゃるんですね。

歌津さん

いや。見て覚えるのが職人。だから、私もまだまだ死ねんたい。

ぶっきらぼうに話す歌津さんの表情は、どこか優しく、嬉しそうでした。

明治・大正・昭和・平成・令和と変わっていく時代の中、
初代から受け継がれた技術と、この景色は変わらないのです
清正さん

普段から武士道の心がけを練っていなかったならば、いざという場合に潔く死ぬことはできにくいものだ。よくよく心を武に刻むことが肝要である。

「武藏屋」さんは、ご主人をはじめ、お孫さんとその奥様も履物の製作にあたる家族経営です。自分たちが作る草履や下駄への誇りを持ち、日々を過ごされています。長く履けば履くほど、その良さが分かってくるものだけに、大事にしてきたのは手抜きをしない事、そして、一生かけて技術を磨き続ける事だと最後に話してくれました。ありとあらゆる事態に備えておくことは、並大抵のことではありません。そんな中でも、歌津さんのように、毎日毎日を真剣に生きる事が、「武蔵屋」さんが、永く愛され続ける秘訣なのかもしれません。

(取材・文・撮影/徳永智久)

歌津 十紀雄さんがオススメする、
近所のラストサムライ

塩胡椒

中唐人町にあるフランス料理店。シェフを務めるご主人はとても真面目な方で、 料理と向き合う姿勢には素晴らしいものがあると感じています。

TEL:096-322-8487
住所:熊本市中央区中唐人町13
営業時間:11:30~OS13:30 /18:00~OS21:00※7歳以下は入店不可
休み:月曜
席数:25席
駐車場:なし

武蔵屋

お問合せ/096-352-6497
営業時間/9:30〜18:30
定休日/日曜、祝日
住所/熊本市中央区呉服町1-1
(中唐人町通り)
アクセス/熊本市電A系統呉服町
電停より徒歩3分