熊本を代表する老舗店の女将は元サラリーマンだった!
「熊本」「郷土料理」で検索すると、だいたい上位にヒットするほど有名な「郷土料理 青柳」さん。熊本を訪れるお客さんをもてなすにはピッタリ。私も、いつかそんな風に使ってみたいと思う、あこがれのお店です。あこがれと言ってしまったのでお気づきと思いますが、少々敷居の高い、よいお店。そんな名店を取材できるなんて光栄です!
おお!
綺麗な人が待ってくれている!
いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました。お料理もご用意していますので、ゆっくりしていってくださいね。
はい~♥
ゆっくりさせていただきます♥ ♥
コラッ! 仕事じゃぞ!
いかんいかん、綺麗なものを見るとつい…。
現在、「青柳」さんは、熊本地震の影響で本館の建て直しをしているため、仮店舗で営業中です。仮店舗と言っても、そこは名店、手抜きなし! 高級感のあるアプローチを抜けた先にある、木のぬくもりに満ちた外観が美しい。もちろん、店内も、カウンター席や個室を用意し、以前と変わらず、上質な空間でお客さんをもてなしているのです。
ネットでさまざまな情報が検索できる時代。「青柳」さんの情報も同じです。それでも改めて「青柳」さんを取材したかったのはなぜか…。そう! 2代目女将の倉橋恭加さんのいろんな事を聞きたかったからなんです!(どうも綺麗な人を前にするとテンションが上がってしまいます)
倉橋さんは、こちらの生まれなんですか?
はい、「青柳」で生まれ育ちました。
え? 家が「青柳」さんなんですか?
はい、自宅兼店舗なんです。「青柳」は昭和24年創業なので、私が生まれた頃には、両親が店を切り盛りしていましたね。
街なかに住んでいたんですね。都会っ子!(熊本人は街に住む=都会人だと思う傾向があります。東京に生まれ育った人は、雲の上のようなステイタスの持ち主…かどうかは定かではありませんが)
独り言が多いぞ…
あ、すみません! (気を取り直して)ということは、幼い頃から「青柳」で育ち、跡を継ぐのは当然と思っていたんですか?
実は違うんです。私の夢は「サラリーマンになること」でした。
えええ???
そんなに驚かないでくださいよ(笑)。というのも、幼い頃から両親が忙しかったのでかまってもらえず、寂しかったんでしょうね。サラリーマンになれば、そんな忙しい思いをしなくて済む、忙しさから解放されるって思っていたんです。
実際にサラリーマンになっていかがでしたか?
東京の大学を出て、そのまま就職しましたが、どんな仕事をしても大変なんだって気づいたんです。同じ大変な仕事なら「青柳」を継ごうと思い、母、つまり女将に話をしたんですが…。
敷居はまたがせーん!とか?
いやいや、親なら大歓迎じゃろう。
中途半端な気持ちでは継がせられない。帰ってこなくて良い」と言われました。全く家の仕事を手伝ってきていなかったので当然です。それからは、東京の「なだ万」さんで約2年間、さまざまなことを教えていただきました。その甲斐あって帰ってくる事を認めてもらえ、それから「青柳」で修業を重ねました。
女将になり、それまで若女将としてサポート役だったのが、全部ひとりでするようになって、ずっと走っている感じでした。やっと慣れてきたな…と思った途端に地震でしょう。もう、どうしよう!って思いましたよ。
それは本当にきつかったですね。どうやって乗り越えられたんですか?
一人じゃない、従業員やお客様、みなさんがいてくれる、と考えるようになったんです。地震が、「続けていく事の大切さ」を考えるキッカケに。店名の由来にもある、「柳の木のように、細く長く。しっかりと根を張って続けていく」という思い、そのままですね。
昭和24年に創業した「青柳」は、当時、「釜飯・寿司・和食」を冠に営業していたそうで、戦後間もない、ごちそうもない時代に、名物の「元祖 五目釜飯」が評判だったと話してくださいました。
「郷土料理」を冠に掲げた背景にあったのは、女将たちの情熱だった
先代の頃から、熊本を意識し「郷土料理」に特化したお店に変更しました。野菜にしても、魚にしても、肉にしても…熊本は食材が豊富ですし、近くのものを使えるということは、鮮度が良い状態で提供できるということ。これだけのものが手軽に食べられるのは、実はすごくありがたいことだと感じています。そして、何と言っても水がおいしい。料理に水は欠かせませんし、おいしい水を使ってはじめて食材が生きます。だから、熊本の料理はおいしいんです。
治水・土木事業やっといてよかった〜。
本当ですよ!清正さん、ありがとうございます!
こんなにおいしい料理が作れる熊本で店をしているからこそ、その時しか味わえない季節の料理を「肥後料理」と位置づけてご提供しています。そろそろ、お食事もスタートしましょう。
ありがとうございます!
いざ、実食!!
まずは、軽く一杯。熊本のお酒をいただきます。
カウンターでは職人さんが、私のために料理を作ってくれています。目の前で調理されたものをすぐにいただけるのが、カウンターの醍醐味です!
郷土料理NO.1
「ひともじのぐるぐる」
郷土料理NO.2
「からし蓮根」
郷土料理NO.3
「馬肉料理」
染みる、うま味が口の中に染みる!
(広がるっていうより、染みるぅ〜)
あ〜〜! なくなっちゃった!
えっと、これは何ですか?
(たぶんあれだろうけど、現実を受け止められない…)
熊本の食材をこれまでにない新しい料理で提供したいと考えて、火を通すことがタブーとされていた馬肉を、すき焼きにしたんです。牛肉の感覚だと硬くなりすぎるので、馬肉専用の割り下を作ったり、タイミングを考えたりと試行錯誤を重ねて、やっと完成しました!
軽〜く火を通します。
軽くね、優しくね!
溶き卵にダイブ!
はい!この表情になっちゃいます。
仕方ないです。
わしが馬肉を熊本に広げたんだぞ。知っておったか?
おっ!そうなんすね! マジ感謝っす!!
……旨すぎて、キャラが崩壊しておる。
(笑)。満足していただけて良かったです。うちは郷土料理がメインで、昔からの良いものは、その良さを変えずに残しているのと同時に、新しいものの良さも取り入れているんです。「進化し続ける老舗」をコンセプトに頑張っています。
さて、倉橋さんがチャレンジした中のひとつ「本丸御膳」は、熊本の観光面でも大きく貢献しました。江戸時代、熊本場内で食べられていた料理を再現し、提供しているのですが、元になったのは、200年前の「料理方秘」という、今でいうレシピ集。肥後藩主細川家と加賀藩の前田家が、千利休の高弟だったおかげで、加賀の料理人が料理方秘を書き写したのを持っていたという奇跡が起き、再現に至ったそうです。とは言え、現代のレシピ集ではないので、言葉の解釈から行うという、血のにじむような努力の結果というわけです。
200年前のお殿様料理、
心していただきます。
多くの観光客の声を聞く中で見えてきた熊本の課題。 立ち上がった女将がチャレンジしたのは…!
え?? いきなり何ですか?
わ!びっくりした!
突如現れた、おたふくの面をつけた女性。軽快で時に滑稽な踊りは、ついつい引きつけられます。
驚かれました? これは、うちのスタッフが踊ってるんですよ。
踊りもするんですか?
実は、10数年前のことになりますが、お客様から「熊本には熊本城という立派なお城があるのに、文化が無いんだね」と言われたことがあったんです。芸能がないよね、と。「あれだけ立派なお城があるから、昔からの余興、芸能もそれなりにある」と期待していらしたんですが、いざ熊本に来てみると、踊りはない、芸能もない…。それを聞いて「確かにそうなのかな」と考えるようになったんです。
阿蘇や山都町などに行くと文楽を楽しめたりしますが、確かにお城の周辺ではすぐに思いつかないですね。
昔は、熊本にも置屋さんというか、検番というのがあったんです。でも今ではそういうものもなくなって。そもそも、お城というのは、歴史があるからこそ素晴らしいものだと思うんです。お城自体に魅力があっても、観光する街としてつまらないんじゃないかなと感じていたんです。そんな時に、母から、「花童」という子ども舞踊の活動を教えてもらって…。
「花童」は、郷土の歴史・文化・芸能を受け継いでいく子どもたちを育てる事を目的に活動している舞踏団ですね。最近、各所で名前を聞くようになりました。(あれ? 古町のラストサムライ・上村元三さんの娘さんも花童の一員だったような…)
そうなんです。その子達の踊りが本当に素晴らしくて。指導者の中村花誠先生とお話する機会があり、その時に、「熊本の芸事をもっと盛り上げたいね」となって、うちのスタッフへの指導を依頼したんです。それが10年近く前の話です。
お客さんからの指摘があって、けっこうすぐなんですね。思いついたら即行動タイプですね。
実践あるのみ。その心意気、すばらしいぞ!
郷土芸能を盛り上げたいという思いだけで、スタッフと一緒に努力をしました。「偽物だ!」と罵倒された時もありましたが、みんな前向きで、その気持ちがあったから続けて来れたと思います。現在は、「肥後っ娘」だけでなく、定期的にお披露目できる場所があったほうが良いと考え、毎週水曜には、「花童」の子どもたちが踊りにきてくれるんですよ。
郷土芸能を料理屋さんが盛り上げるというのは、大変な事だと思います。(これは、やっぱりサムライだ!)
どこの地域でも、時代でも、土地の文化を守るのは料理屋さんだと話す倉橋さん。芸妓さんには料亭という場があって派遣されて行き、宴席では郷土の文化・芸能がお披露目される。それを見たお客さんが喜んで、「熊本にまた行きたい」と思えば、それが観光としても地域のプラスになると考えているのです。「青柳」さんの使命。それは、「また来たい」と思ってもらえるくらいの、歴史建造物と同じくらいの観光の目的になれる「食・文化・芸能」を未来に残していくことだと、熱く語ってくださいました。
表の並木には桜を、裏の並木には栗を。
「桜は来た人を楽しませ、栗はいざという時には食料や薪になる」。清正さんの格言の通り、観光客を迎える「青柳」さんは、表は華やかにしておかなければいけません。ただ、その見た目だけにこだわるのではなく、倉橋さんは、仲間とともに見えないところで日々努力を重ねているのです。まだ走り出したばかりの女将の思いは、今は小さな渦かもしれませんが、きっと大きな渦になる。そんな予感がしました。
倉橋 恭加さんがオススメする、
近所のラストサムライ
- キャサリンズバー
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元気いっぱいで明るいキャサリンさんにいつもパワーをもらいます。 熊本のシンボルのようなお店です。
TEL:096-354-3178
住所:熊本市中央区花畑町11-9第二蘇州ビル1F
営業時間:17:00~24:00
休み:不定
席数:43席
駐車場:なし
青柳本店
お問合せ/0120-898925
営業時間/11:30〜14:00、17:00〜22:00
定休日/なし
住所/熊本市中央区下通1丁目2-10
アクセス/「熊本城・市役所前」電停より徒歩約3分
はじめまして、熊本出身・東京在住のライター・大原綱祐、31歳です。趣味は園芸。綺麗なものかわいいものを愛でるのが大好きな私への指令は、ある料理店の女将さんをインタビューすること。女性と話すのは緊張しますが、綺麗な方や料理は大好きなので、がんばります!