古町に、元三商店という店を構え、方々に飛び回っている男がいるらしい。早速取材に行って参れ!

ライター・徳永

こんにちは。ライターの徳永です。趣味はカメラ片手の街歩き。昭和の香り漂うレトロな看板とか見つけると萌える方です。今回訪ねるのは古町界隈。古町という言葉にもうワクワクが止まりません! では行って参ります!」

町人の情を感じる人と人との出会いの場。
多彩な活動で古町の魅力を伝える

こちらが「上村元三商店」古い木造の建物が醸し出す雰囲気が レトロマニアにはたまらない。

ラストサムライを探し訪ねたのは、古町界隈の魚屋町にある「上村元三商店」。話によるとこの店は居酒屋としてだけでなく、キャンドルハウス、企画屋、はたまた出張BBQ、まち案内、人力車、お祭りの企画など、様々な顔を持ち、古町の情報発信の拠点的な場所になっているとか。その商店を切り盛りするご主人・上村元三さんは、界隈の若い人達のまとめ役というから、まさにラストサムライ! 弟子入りせねば!

商売内容が書かれた提灯がズラリ。かなり時代劇っぽいビジュアル。城華とは?
入り口には「熊本城下町きゃあめぐろ立ち寄り所」とある。とにかく入ってみましょう!
ライター・徳永

こんにちは!

元三さん

いらっしゃい! ようきなはったですな~。上村元三です。

と、出迎えてくれた主人。着物姿が商家の旦那さんぽい。うーん、店といい主といい雰囲気あるなというのが第一印象。

ライター・徳永

着物姿がバリッと格好いいですね。

元三さん

店では毎日着とります。洋服の時は「ラテン系」ですけどね。

と、ラテン系とアピールする元三さん。

元三さん

うん、サッカーを昔やっていて、サルサをちょいと長くしてるかな。

話によると、サルサがブームになる前、熊本でダンスパーティーを、みんなでいち早く開いていたらしい。元三さんが還暦を迎えたときに開いたパーティーでは、サルサの先生達が踊ってくれたとか。また、日本が初出場した時のサッカーワールドカップの時は、お店を借りてパブリックビューイングをしたという。無類のイベント好きのようです。

「他のスポーツもここでパブリックビューイングするけど、やっぱりサッカーが一番熱くなるね。」と、サッカー愛をちらつかせる元三さん。日焼けした深い顔立ちを見ると、ラテン系という言葉にもはや疑いは持てなくなってきました。

着物がお似合いの元三さんだが、自他共に認めるラテンとサッカーをこよなく愛す御仁だった。情熱的に様々な事をこなす原動力もそこなのか?
ライター・徳永

お名前がそのままお店の名前ですね。

元三さん

あぁ 店名ね。店が先。自分が生まれる前に祖父が店につけたのよ。

ライター・徳永

ということは、生まれながらにして店の名を名前として授けられたんですか?

元三さん

そのおかげではないけど、物心ついた時から将来は店を継ぐと決めていましたね。

ライター・徳永

「新町・古町認定町家」と玄関にプレートがあり、また風格といい随分古い建物に思えるんですが。いつぐらいに建てられたんですか?

元三さん

いつ建てられたのか分からないけど、100数十年は経ってるね。

店の歴史をざっくりと書くと、近くの万町の老舗金物店で働いていた祖父が、その金物店が倒産し、商売を引き継ぐ形で昭和31年に現在の場所で「上村元三商店」を開店。そして、その2年後2代目の長男として生まれたのが元三さんだ。19歳の時に家業に就き、その後、敏子さんと出会い結婚。しばらくして「企画屋業」に目を向け「出張BBQ」を始めたという。そのほぼ同時期に、敏子さんは、熊本ではまだ誰もいなかったキャンドルクリエーターになるために勉強をし、1990年にこの場所で「キャンドルハウス」を開店。現在まで様々なイベントで灯りの演出を受けたり、キャンドル手作り教室の講師を務めている。現在、店舗は昼は「キャンドルハウス」、夕方からは予約制居酒屋「源ZO-NE」として機能している。

上村さんが取り出して見せてくれたのが「上村元三の人生計画」イラストやグラフ、年表を交えながら、元三さんのこれまでの歩みとこれからの目標が非常に細かく具体的にぎっしりと書いてある。見させて貰って、ただただ脱帽!

実は美味しいメニューがてんこもりの「源ZO-NE」熊本のソウルフードをいただこう!

味のある手書きメニュー。一見ぶっきらぼうに書かれているように見えるが、良く見ると統一性があり 字も達筆。イラストもいい感じ。確かに熊本の美味しいものが勢揃いしている感があります
元三さん

お腹もすいたでしょう。うちの料理ば食べてみらんね。用意するけん。

ライター・徳永

さっきからカウンターの上に書かれたメニューがかなり気になっていました。じゃあ お言葉に甘えて頂かさせてもらいます!

元三さん

みんなのだんらんの場としても楽しんでもらえればと始めたとよ。

カウンター席。ふらっとお盆の挨拶に訪れた友人と話す元三さん
広いテーブル席もあり、ここで敏子さんのキャンドル教室等も行われるほか、 もちろんイベント企画等の作戦室にもなります
元三さん

料理人じゃないので、凝ったもんは出せんけど、自分が食べて美味しいと思ったものを置いたりして、お客さんには出しよるとよ。

まず出してくれたのがこの“醬油枝豆”ゴマ油の風味も合わさって正直旨い! クセになりそうです
こちらは“ごぼうの唐揚げ”。うーん!サクッとした食感がめちゃ旨。ビールが飲みたい!
元三さんお気に入りの豆腐屋の厚揚げを使った“糸島揚げ鉄板焼き”。ふっわふわ!
これが出張BBQを行う元三さんの真骨頂“シュラスコバラ肉 肩ロース”。
モーリョ(ブラジルの野菜ソース)をかけて食べる。味はもちろんハイレベル!
ライター・徳永

うわー!これあのシュラスコですか?肉の塊を串焼きで焼くあれ?

元三さん

そうです。出張BBQでもおなじみのメニューです。そうだ来週仲間とBBQをするけん。遊びにきませんか?

ライター・徳永

あっ 行きます!

元三さん

じゃあ、詳しくわかり次第連絡するね。そうそう馬すじ煮込みもあるけん食べてみるね。結構美味しいって言われるとよ。

ライター・徳永

あっ そうですか(初対面なのに、なんて気さくなんだ! )。

元三さん

おーい馬すじ煮込みあるかな?

敏子さん

うん、あるよ。すぐ用意するね。

「はいどうぞ」と“馬すじ煮込み”が登場!
熊本のソウルフードといっても過言ではないかもしれない。
トロッとしたお肉とスッキリ目のスープは甘み、旨味に郷土の「赤酒」を使ったシンプルながら黄金の味わい
無言になってただただ食べる私
ライター・徳永

シンプルな味付けが美味しいですね。やっぱり熊本は馬肉ですね。

元三さん

そうたい。旅の御仁には喜んでいただけますね。

暮らしに灯をともす
奥さんの「キャンドルハウス」

店内をあらためて見渡すと敏子さん作のキャンドルがたくさん飾られています。奥さんは2003年には賞を受賞したキャンドルクリエーターというから驚き!

お気に入りのキャンドルを手にする敏子さん。
ライター・徳永

たくさんキャンドルが並んでいますね。熊本でいち早くキャンドル作りをはじめられたとお聞きしたんですが?

敏子さん

そうかもですね。当時はまだ珍しかったから。

ライター・徳永

始めようと思ったキッカケは?

敏子さん

金物屋に嫁いで来てからギフトに力を入れることになり、ラッピングの勉強をしていました。そんな時に本屋でキャンドルの本を見つけてピンと来て。主人も賛成してくれて、福岡や東京まで勉強に通いました。

ライター・徳永

教室もやっていらっしゃるんですよね。

敏子さん

そうです。川尻町のくまもと工芸会館でも教えていますが、ここでもキャンドルハウスを行っているんですよ。

奥の部屋にも様々なキャンドルが
敏子さん

キャンドル一つひとつが私の子どもみたいなものなんですよ。また、キャンドルを通してたくさんの人と出会えました。それが一番嬉しいことですね。

ディナーの食卓にもよく合いそう。
教室でも作っているという“くまモンキャンドル”。
キャンドルと一緒に知り合いのミニアチュア・アート作家
小森先生が作られたという店の模型も飾られていた。うーんよく出来てる!
中の様子も再現してある!
古い看板を発見!もともと小学生の時、隣の建物の石鹸屋を合わせて
一軒にしたそうだ。これは当時の石鹸屋時代のモノ

城下町を肌で感じる!
BBQと人力車、町案内を体験

この前の着物姿とはうってかわり、企画屋BBQのバックプリントが入ったTシャツに 下はストライプの入ったズボン姿の元三さんだった

と言うわけで、後日熊本市西区の石神山公園へBBQに参加すべく向かいます。到着したら、すでに準備にとりかかっている元三さんの姿が…。あれ?今日は着物姿じゃない。当然といえば当然か。

熊本市内とは思えない自然に囲まれた公園。向こうに見えるのがBBQのテント。お〜い!
ライター・徳永

初めてきました。いい場所ですね。

元三さん

そうだね。街にも近くて、ここでやりたいというお客さんの依頼も多くて、何回も利用しているよ。

ライター・徳永

あっ シュラスコだ。美味しそう!

元三さん

シュラスコは時間がかかるから、今回はあらかじめ大方焼き上げているよ。後で切るから楽しみにしてね。

人も集まりBBQスタート。テーブルや椅子などは、東京の電車の中で摩訶不思議に出会ったという浜松のBBQの師匠から譲り受けたものだそう。
30セットぐらい持っていて、 多い時は300人を超える規模のBBQの依頼も受けている
あこがれのシュラスコが!
じゃーん。熊本の肉グルメの代表格あか牛肉も投入
シュラスコが切り分けられる!
今日もまたまたすみません。いただきます!
ライター・徳永

美味しいです!野外でのBBQは最高ですね。

元三さん

でしょ!楽しいと言ってくれる人の笑顔を見たくてやっているというところもあるかな。今日は人力車と街案内のスタッフも店に来るので後で行きましょう。

清正さん

自然を愛でながら開く宴は楽しいものじゃ。わしも参加したいぞ!

そして、BBQを楽しんだ後、また店に向かいます。

店で待っていると、まず最初に人力車の相棒・早崎さんが到着。人懐っこい笑顔、筋肉質な体も印象的。古町で下駄屋の主人だったという早崎さん(現在はお好み焼き屋さん)は、元三さんとは旧知の仲間。
ライター・徳永

雰囲気ありますね。

元三さん

早崎君はこの間のテレビの大河ドラマでも人力車を引く役で登場したよ。

ライター・徳永

えっ、そうだったんですか。

早崎さん

えっ、照れるな。もう随分人力車を引いているからね。絵にはなるのかな(笑)。今日は知り合いから頼まれて古町界隈を引くから乗ってみらんね。

腕の筋肉がスゴイ! 鍛えてますね!
「向こうに見えるのが明十橋。日本橋や皇居の二重橋を手がけた職人が明治10年に造った橋です。」と、時折車を止めては説明してくれます
私も乗せてもらいました。思ったより乗り心地が良く、高い視線からの眺めはいい。偉い人になった気分です
清正さん

おまえごときが乗るなんて。わしの時代にもこんなのがあったらのー。

ライター・徳永

普段はどんな依頼が多いのですか

早崎さん

観光客の依頼で古町界隈を引く事ももちろんありますが、結婚式で式場の神社と披露宴会場の間を新郎新婦を乗せることも多いですよ。

ライター・徳永

うわー、それはまたまた絵になりそう。

早崎さん

新郎新婦さんからは、「いい思い出になります」と感謝され嬉しいですよ。ところで乗り悪くないでしょ?

ライター・徳永

はい、最高です!

この日集まった元三さんの仲間。これ、映画のセットじゃなくて本物です

今度は、元三さんとともに「くまもと古町案内人」スタッフをボランティアで務める平野さんと瑠璃さんのもと、町案内に参加。

まずは上村元三商店で古町の歴史について説明を受ける。平野さんがパンフレットを手に説明。平野さんは普段は事務所を古町に構えIT関係の仕事をしていらっしゃるそう。 8年程前から古町 町案内人を務めています
その後、集まった皆さんと一同で町巡りに出発
ゆっくりと古町をそぞろ歩く
案内人スタッフの「古町小町」こと瑠璃さん。2011年に東京から居を移した後、元三さんと知り合い案内人を務めています。普段は声楽家のマネージメントやフランス語の発音指導などをしていらっしゃるそう。着物が大好きだということですが……本当に美しい!
途中、築140年の建物を店にした「ピュアリィ」に立ち寄ります。ここは吹き抜け構造を利用した趣あるレストランと、有機野菜や加工品、オーガニック素材などの服飾品などの アンテナショップを併設している古町の人気店
現在レストランの一部となっている地下の空間では、目の前の川と木レンガが床に敷き詰められているのを見学できます

昔から住む人と新しく移ってきた人が 繋がり合い、ともに古町を守って行く

呉服町は、呉服屋がたくさんあった着物の町。 着物でこの町を盛り上げようという想いから、自然とこの装いに
ライター・徳永

平野さんも瑠璃さんもこの町に移ってきた人ですが、今の活動のキッカケは?

平野さん

移り住んで来て古いモノが残る古町に魅力を感じたから。この町を人に知ってもらうことが今は嬉しいです。

ライター・徳永

元三さんとは、どういうきっかけでお知り合いになられたのでしょう?

平野さん

古町に住んでいて元三さんと知り合わないなんてありえません(笑)。キーパーソンですから。

瑠璃さん

私は、東京から引っ越してきて、母が熊本出身なので、その知り合いの繋がりで元三さんと出会いました。今では、元三さんは私の父みたいな存在です。それに、ここは今では自分にとってのもう一つの家みたい。期間限定の「瑠璃カフェ」も開かさせて頂いているんですよ。古町は私の大好きな町。世界中にこの町を知ってもらいたいですし、この町に恩返しをしていきたいです。

ライター・徳永

表の提灯に“城華”というのもあって気になっているんですが?

元三さん

「“和”で町を盛り上げよう」と2007年に立ち上げた団体が「城華」です。毎年8月に近くのお寺でお祭りを開催しています。ジャズやシャンソン、三味線の演奏、琵琶法師の怪談とかをジャンル問わずやったりして、テーマは「大人の夏祭り」ということで、結構もりあがっています。

毎年8月に行われる「城華まつり」のチラシを見せてくれた元三さん
ライター・徳永

祭りといい、人力車や街案内といい、たくさんの人と連動して動いていらっしゃいますね。その原動力は?

元三さん

面白かったらやろう。逆に面白くなかったらやめる。それが私のスタンスです。

ライター・徳永

なるほど。もっともです。

清正さん

いさぎよいのぉ〜。

元三さん

ちなみに、僕自身が若い人を引っ張っているというのは、違和感があるんです。僕はいつも一緒に遊んでくださいって声をかけているんですよ。上から目線で話すのは嫌いだし。それで遊んでもらえんようになったら自分が面白くなくなったということでしょう。

ライター・徳永

うん、分かるような気がします。

元三さん

私がそもそも、金物屋から家庭内脱サラをして企画屋を始めたキッカケは、東京に妻と見本市に行った時、たまたま帰りの電車で隣に乗っていた人と話したことです。僕が始めたいと思っていた出張BBQをその人は既に行っていて、話がトントン拍子で進み、その後、静岡県で研修をさせてもらいました。人との出会いは本当に摩訶不思議。感謝しかないですね。

清正さん

願えば叶う、じゃな。

ライター・徳永

話が変わりますが地震では大分被害があったようですね。

元三さん

新町と古町合わせて200軒あった古い町家が、100軒に減ったと言われています。倒壊を免れた町家を残していこうという想いは皆持っていますが、再建にはお金の事情があったり、僕らではどうしようもないこともある。いくつかの町家の再建が行われているのは嬉しいことです。

ライター・徳永

これからのビジョンは?

元三さん

僕らここ古町で生まれ育った人と、何かをはじめたいと新たに移り住んで来る人をどんどん繋げていきたい。私はもう年ですが、ここに住む若い人達の中には良いビジョンを持った面白い人達がいっぱいいる。これからはそんな彼らをバックアップする立場で、私の役目を全うできたらと思っています。

ライター・徳永

素晴らしい。これからも忙しくなりそうですね。

元三さん

ありふれた答えだけど、大切なのは笑顔。それは家庭でも仕事でも同じ事ですよね。心技体が充実していないと本当の笑顔にはならない。古町に住む一人ひとりが本当の笑顔になれば、ここを訪れた人もいい街だなと感じるはず。僕のビジョンはそこ。そのために思いついたことを躊躇せずにやるだけです。

清正さん

あっぱれな心持ちじゃのう。

3年以上経った今も、「要注意」と書かれた張り紙が残る近くの建物
地震の爪痕が残るお寺。地震直後は、元三さんは地域の防犯班長として奔走した他、炊き出しを行いました。また、炊き出し時のメンバーと“おせっかいし隊”なるものを作り、瓦礫の搬出などを行ったそうです
清正さん

上一人の気持ちは、下万人に通ずる。

古町を愛し、町の発展を考え、次々にアイデアを実践に移してきた元三さん。純粋に町のために活動する背中は大きく力強く、同じ志しを持つ有志が集まってきます。元三さんは彼らの事を「楽しい事を一緒にする仲間」と話します。江戸時代から時は流れ令和になった今、そしてこれからも、この町には熱い想いを持つ人々が集まり、笑顔の花が咲き続けることでしょう。

上村 元三さんがオススメする、
近所のラストサムライ

早川倉庫

万町にある早川倉庫で代々の倉庫業を営む早川さんは、細工町の建物をゲストハウスとして活用するなど、町家の保存活動にも積極的に取り組んでいます。勢いのある若者です。また、ミュージシャンもされています。

TEL:096-352-6044
住所:熊本市中央区万町2丁目4
営業時間:8:00~18:00
休み:土・日曜
席数:なし
駐車場:なし

コーヒーギャラリー

新町にあった自身のお店「COFFEE GALLERY 」を古町に移転オープンさせたばかり。 とにかく若さとパワフルさを兼ね備えた人物。しっかりとしたビジョンを持っています。

TEL:096-325-1533
住所:熊本市中央区新町4-2-5
営業時間:10:00~19:00
休み:水曜
席数:10席
駐車場:なし

上村元三商店

お問合せ/096-352-5187
営業時間/10:00〜19:00(キャンドルハウス)19:00〜24:00(源ZO-NE、予約で営業)
定休日/不定
住所/熊本市中央区魚屋町3-13
アクセス/熊本市電呉服町電停より150m